偏愛的プレミアリーグ見聞録

ユルゲン・クロップ監督を取り巻く環境は、この2週間で激変しました。ミルナー、ナビ・ケイタ、フィルミーノ、チェンバレンの退団を受けて、マック・アリスターとショボスライを獲得するまでは順調。アンカーとCBを加えれば、プレミアリーグのTOP4復帰をめざせる体制が整うと見られていました。

サウジアラビアからの不気味な風がアンフィールドに舞い込んだのは、ショボスライの入団が発表された直後の7月4日でした。アル・イテファクで英語が通じず、苦労していたスティーヴン・ジェラード監督が、ジョーダン・ヘンダーソンを誘ったと報じられたのです。当初は「検討中」だったステータスは、今週に入って「前向き」から「合意」にチェンジしています。

さらに金曜日には、アル・イティハドがファビーニョに4000万ポンド（約73億円）のオファー。ヘンダーソンを引き留める意向だったレッズは、ドイツで実施されるトレーニングキャンプのメンバーに入れていたのですが、ファビーニョはリストから外し、契約手続きとメディカルチェックを進める許可を与えたようです。

33歳のヘンダーソンと29歳のファビーニョをダブルで失うと、中盤の最年長は24歳のマック・アリスター。プレミアリーグやチャンピオンズリーグを制したベテランがいれば、セインツのロメオ・ラヴィアは的確な補強になりえますが、彼らの経験値なしで19歳にアンカーの責任を背負わすのは、かなりのギャンブルです。

「ファビーニョは自宅に留まり、レッズはオファーを却下していない。これは近いうちに契約が成立する可能性が高いことを示唆している」「5年前にモナコから獲得するために費やした4370万ポンドのほぼ全額を回収できるとなれば、決断は簡単だ」。ファビーニョは移籍濃厚という「リヴァプールエコー」のイアン・ドイル記者は、レッズの新たなターゲットを挙げています。

彼の見立てを紹介しましょう。ロメオ・ラヴィアとライアン・フラーフェンベルフの若手コンビは、しばし凍結。フィオレンティーナのソフィアン・アムラバト、マン・シティのカルヴァン・フィリップス、フラムのポルトガル代表MFジョアン・パリーニャといった即戦力が再度浮上すると主張しています。

ブライトンで中盤の主軸として活躍したモイセス・カイセドは、21歳ながら候補リストに入るかもしれません。チェルシーの8000万ポンドのオファーに対して、ブライトンが付けたタグは1億ポンド（約182億円）。ファビーニョとヘンダーソンを売って得た資金を、ラヴィア獲得の予算に足せば、充分手が届くレベルでしょう。

地元メディアの記者は、「アムラバトはプレミアリーグでの経験がない」「シティはライバルにフィリップスを売却するのは乗り気ではない」「フラムは28歳のパリーニャに9000万ポンドという非現実的な設定をしている」と、それぞれの懸念材料を示しています。カイセドはプレミアリーグで実績を残しており、クラブは売る気満々で、高額とはいえ21歳です。

レッズは一気にベテランを手離し、新たな戦力に命運を託すのでしょうか。それぞれのディールについて、欧州とサウジアラビアにおけるトランスファーマーケットの実情を押さえているファブリツィオ・ロマーノさんの見解を添えておきましょう。

「ファビーニョはチームとともにドイツに渡らない。アル・イティハドとの交渉が進んでおり、個人的な条件は合意済み」

「リヴァプールとアル・イテファクはジョーダン・ヘンダーソンの交渉を続けているが、クラブ間の合意はまだない。主な問題は、サウジアラビアのクラブがフリーで獲得できると確信していること。話し合いが始まっているが、これはノーチャンスだろう。ヘンダーソン自身は3年契約で合意済み」

「リヴァプールは、昨日の噂はあれども、モイセス・カイセドの獲得交渉は行っていない。ロメオ・ラヴィアを含む他の選択肢を検討している」

どうやら、クロップ監督が望まない結末になる可能性が高そうです。想定外の戦力ダウンを強いられそうなリヴァプールの立ち回りに注目しましょう。ヘンダーソンだけでも残せれば…！