2023.07.17 移籍ニュース2023-24移籍ニュース
現地メディアが総力特集!アルテタとエドゥ、デクラン・ライスを追いかけた165日の軌跡。
「アーセナルは、まさにオール・オア・ナッシングだった。プランBはなく、代役となるターゲットに切り替えて節約することもできず、したがってミスが許される余地もない」
「デクラン・ライスか、破滅か。ウェストハム・ユナイテッドのキャプテンは、この夏、ミケル・アルテタのすべてだった。クラブの関係者は何ヵ月もの間、彼はアーセナルの監督のヴィジョンそのものであり、それは誇張ではないのだと反芻してきた」
1万6000字を超えるドキュメンタリーのタイトルは、「Inside Declan Rice’s move to Arsenal: Arteta influence, long-term plan, no transfer request(デクラン・ライスのアーセナル移籍の舞台裏~アルテタの影響、長期プラン、トランスファーリクエストなし)」。緻密な取材に定評がある「アスレティック」の記者たちが、166日の軌跡を振り返って構成した総力特集です。
ジョーダン、キャンベル、ロシェン・トーマス、ジェームズ・マクニコラス、ローリー・ウィットウェル、アンディ・ネイラー、そしてデヴィッド・オーンスタイン。6人が関わった迫真のレポートには、現場で関係者と話した者しか知りえないエピソードがちりばめられています。クラブレコードとなる1億500万ポンドのディールについて、記事で語られている印象的なシーンをいくつか紹介しましょう。
以前からデクラン・ライスを高く評価していたミケル・アルテタとスタッフが本格的に動き出したのは、1月にモイセス・カイセドを獲得できないと判明してからです。ガナーズの指揮官は、イングランド代表でともに戦っていたブカヨ・サカとアーロン・ラムズデールにヒアリングを行い、彼の性格とリーダーシップについて理解を深めたそうです。
入念なリサーチの結果、プレミアリーグで残留争いに巻き込まれていたハマーズも、キャプテンを出す可能性はゼロと判断。2人のターゲットの獲得を諦め、ジョルジーニョを押さえたガナーズは、デクラン・ライスを最重要ターゲットと定めてアプローチを開始しました。
ハマーズに対して最初のオファーを提示する前に、アルテタ監督とエドゥSDが敢行したのは、本人を口説き落とすことと、家族の理解を得ることでした。ガナーズの指揮官とディレクターは、24歳のセントラルMFと顔を合わせ、プロジェクトの全体像と彼が果たすべき役割について、映像を用いて事細かに説明したそうです。
選手も代理人も、本一冊分に及ぶ報告書で自分たちを研究した指揮官に感銘を受けたとのこと。彼らが接したいくつかのビッグクラブは、ピッチにおけるディテールや求めるパーソナルティについて、さほど話さなかったようです。情熱的な指揮官の思いを感じた41番は、入団後のインタビューで「ミケル・アルテタの存在は、入団を決めた最大の理由だった」と述懐しています。
彼の家族に根回ししたのは、エドゥSDとフットボール・オペレーション・ディレクターのリチャード・ガーリック。父親と弟の納得感を得て、個人条件に関する懸念は消え去りました。ヨーロッパカンファレンスリーグで王者となり、イングランドのユーロ予選に参加したMFを待ち続けたクラブは、ハンプシャーで開催されたプレミアリーグの年次総会でも布石を打っています。
当日、会場にいたのは、移籍金の総額や支払い方法に関与していたティム・ルイス。ハマーズのカウンターパートとなるカレン・ブレイディとの会談について、「アスレティック」の記者は「いい後押しになった」と評価しています。その6日後、6月20日に7500万ポンドとアドオン1500万ポンドのオープニングオファー。これを断られるのは想定内でした。
あの驚愕のオファーまでは、ライバル不在。マンチェスター・ユナイテッドに具体的なアプローチはなく、ジュード・ベリンガムに気を遣ってデクラン・ライスに会うのを避けていたリヴァプールは蚊帳の外です。バイエルンのトーマス・トゥヘルは、チェルシー時代に彼をほしがっていた難敵ですが、アーセナルに出し抜かれたとわかり、動かなかったようです。
完璧だったプロセスに亀裂が生じたのは、6月25日。トレブルを達成した絶対王者マン・シティが、ガナーズを上回る8000万ポンドとアドオン1000万ポンドというオファーを提示しました。当時の状況について、渾身のドキュメンタリーはこう表現しています。
「ライス・プランの道を突き進んでいたため、コースを逆行するという選択肢はなかった。カイ・ハヴェルツとの6500万ポンドの契約はほぼ完了していた。アルテタの中盤の戦術的な改革は、ドイツ人とライスが並んでプレイすることを前提にしていた」
「ハヴェルツはジャカの後釜として左の8番を任されるが、レヴァークーゼンやチェルシーでは10番やストライカーの役割を担っていた。アルテタはライスについて、ハヴェルツとウーデゴーアの両脇を補完する運動量とボール奪取力を持っていると評価していた。この段階では、カイセドは既にバックアップオプションとしては取り返しがつかない状態になっていると見られていた」
「それでもアーセナルは、ライスの移籍金を巡ってウェストハムとの交渉が進まなくなったとき、カイセドの陣営に打診している。この話は、彼らがいかに2人は別格だとジャッジし、ナーバスになっていたかを物語っている」
「シティが獲得レースに正式に参戦したとき、アーセナルは落胆していた。彼らの目には、選手はずっとエミレーツを希望しているように見えていた。主将のギュンドアンに代わり、エティハドでグアルディオラの下でプレイする…国内と欧州の王者の誘惑に負けてしまうのか?アーセナルは、ライスに自分たちとの約束を守ると示してほしかったのだ」
王者にハイジャックされる可能性ありと報じられた2日後、ガナーズはこれまで選ばなかった手段でライバルを叩き出しました。元々は、そこまで出さなくても決められるだろうと考えていた1億ポンドオーバー。官僚的で意思決定のスピードに欠けると評されていた決裁のフローは2日で完了し、ハマーズがなびく前にマン・シティを撤退させました。
このレポートは最後に、24歳の主将がいかに責任感が強い人物で、チームメイトに慕われていたかを活写しています。興味がある方は、「アスレティック」のほうで目を通してみてください(有料ですが…)。私が伝えたかったのは、アルテタ、エドゥ、ガーリックの情熱と、現地記者が情報収集や裏取りを丹念に行った素晴らしい記事に出会えたということです。
自分でもよくわからないまま、アーセナルのビッグディールの熱に浮かされてしまったのは、中堅クラブで体を張ってきた選手の思いと、どうしても獲りたいクラブの必死さが伝わってきたからなのかもしれません。祭りは終わり、新たな日常が始まります。次のプレミアリーグが開幕する頃には、指揮官と彼が話している風景が、昔からのことのように思える気がしてなりません。
「デクラン・ライスか、破滅か。ウェストハム・ユナイテッドのキャプテンは、この夏、ミケル・アルテタのすべてだった。クラブの関係者は何ヵ月もの間、彼はアーセナルの監督のヴィジョンそのものであり、それは誇張ではないのだと反芻してきた」
1万6000字を超えるドキュメンタリーのタイトルは、「Inside Declan Rice’s move to Arsenal: Arteta influence, long-term plan, no transfer request(デクラン・ライスのアーセナル移籍の舞台裏~アルテタの影響、長期プラン、トランスファーリクエストなし)」。緻密な取材に定評がある「アスレティック」の記者たちが、166日の軌跡を振り返って構成した総力特集です。
ジョーダン、キャンベル、ロシェン・トーマス、ジェームズ・マクニコラス、ローリー・ウィットウェル、アンディ・ネイラー、そしてデヴィッド・オーンスタイン。6人が関わった迫真のレポートには、現場で関係者と話した者しか知りえないエピソードがちりばめられています。クラブレコードとなる1億500万ポンドのディールについて、記事で語られている印象的なシーンをいくつか紹介しましょう。
以前からデクラン・ライスを高く評価していたミケル・アルテタとスタッフが本格的に動き出したのは、1月にモイセス・カイセドを獲得できないと判明してからです。ガナーズの指揮官は、イングランド代表でともに戦っていたブカヨ・サカとアーロン・ラムズデールにヒアリングを行い、彼の性格とリーダーシップについて理解を深めたそうです。
入念なリサーチの結果、プレミアリーグで残留争いに巻き込まれていたハマーズも、キャプテンを出す可能性はゼロと判断。2人のターゲットの獲得を諦め、ジョルジーニョを押さえたガナーズは、デクラン・ライスを最重要ターゲットと定めてアプローチを開始しました。
ハマーズに対して最初のオファーを提示する前に、アルテタ監督とエドゥSDが敢行したのは、本人を口説き落とすことと、家族の理解を得ることでした。ガナーズの指揮官とディレクターは、24歳のセントラルMFと顔を合わせ、プロジェクトの全体像と彼が果たすべき役割について、映像を用いて事細かに説明したそうです。
選手も代理人も、本一冊分に及ぶ報告書で自分たちを研究した指揮官に感銘を受けたとのこと。彼らが接したいくつかのビッグクラブは、ピッチにおけるディテールや求めるパーソナルティについて、さほど話さなかったようです。情熱的な指揮官の思いを感じた41番は、入団後のインタビューで「ミケル・アルテタの存在は、入団を決めた最大の理由だった」と述懐しています。
彼の家族に根回ししたのは、エドゥSDとフットボール・オペレーション・ディレクターのリチャード・ガーリック。父親と弟の納得感を得て、個人条件に関する懸念は消え去りました。ヨーロッパカンファレンスリーグで王者となり、イングランドのユーロ予選に参加したMFを待ち続けたクラブは、ハンプシャーで開催されたプレミアリーグの年次総会でも布石を打っています。
当日、会場にいたのは、移籍金の総額や支払い方法に関与していたティム・ルイス。ハマーズのカウンターパートとなるカレン・ブレイディとの会談について、「アスレティック」の記者は「いい後押しになった」と評価しています。その6日後、6月20日に7500万ポンドとアドオン1500万ポンドのオープニングオファー。これを断られるのは想定内でした。
あの驚愕のオファーまでは、ライバル不在。マンチェスター・ユナイテッドに具体的なアプローチはなく、ジュード・ベリンガムに気を遣ってデクラン・ライスに会うのを避けていたリヴァプールは蚊帳の外です。バイエルンのトーマス・トゥヘルは、チェルシー時代に彼をほしがっていた難敵ですが、アーセナルに出し抜かれたとわかり、動かなかったようです。
完璧だったプロセスに亀裂が生じたのは、6月25日。トレブルを達成した絶対王者マン・シティが、ガナーズを上回る8000万ポンドとアドオン1000万ポンドというオファーを提示しました。当時の状況について、渾身のドキュメンタリーはこう表現しています。
「ライス・プランの道を突き進んでいたため、コースを逆行するという選択肢はなかった。カイ・ハヴェルツとの6500万ポンドの契約はほぼ完了していた。アルテタの中盤の戦術的な改革は、ドイツ人とライスが並んでプレイすることを前提にしていた」
「ハヴェルツはジャカの後釜として左の8番を任されるが、レヴァークーゼンやチェルシーでは10番やストライカーの役割を担っていた。アルテタはライスについて、ハヴェルツとウーデゴーアの両脇を補完する運動量とボール奪取力を持っていると評価していた。この段階では、カイセドは既にバックアップオプションとしては取り返しがつかない状態になっていると見られていた」
「それでもアーセナルは、ライスの移籍金を巡ってウェストハムとの交渉が進まなくなったとき、カイセドの陣営に打診している。この話は、彼らがいかに2人は別格だとジャッジし、ナーバスになっていたかを物語っている」
「シティが獲得レースに正式に参戦したとき、アーセナルは落胆していた。彼らの目には、選手はずっとエミレーツを希望しているように見えていた。主将のギュンドアンに代わり、エティハドでグアルディオラの下でプレイする…国内と欧州の王者の誘惑に負けてしまうのか?アーセナルは、ライスに自分たちとの約束を守ると示してほしかったのだ」
王者にハイジャックされる可能性ありと報じられた2日後、ガナーズはこれまで選ばなかった手段でライバルを叩き出しました。元々は、そこまで出さなくても決められるだろうと考えていた1億ポンドオーバー。官僚的で意思決定のスピードに欠けると評されていた決裁のフローは2日で完了し、ハマーズがなびく前にマン・シティを撤退させました。
このレポートは最後に、24歳の主将がいかに責任感が強い人物で、チームメイトに慕われていたかを活写しています。興味がある方は、「アスレティック」のほうで目を通してみてください(有料ですが…)。私が伝えたかったのは、アルテタ、エドゥ、ガーリックの情熱と、現地記者が情報収集や裏取りを丹念に行った素晴らしい記事に出会えたということです。
自分でもよくわからないまま、アーセナルのビッグディールの熱に浮かされてしまったのは、中堅クラブで体を張ってきた選手の思いと、どうしても獲りたいクラブの必死さが伝わってきたからなのかもしれません。祭りは終わり、新たな日常が始まります。次のプレミアリーグが開幕する頃には、指揮官と彼が話している風景が、昔からのことのように思える気がしてなりません。
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