偏愛的プレミアリーグ見聞録

「Harry Kane deadline day」。8000万ポンドとアドオンでオファーしたバイエルン・ミュンヘンは、8月4日の深夜までに決断すべしと迫っています。ノーといい続けてきたダニエル・レヴィ会長は、ついにハリー・ケインの移籍を認めるのでしょうか。バイエルンとストライカーは相思相愛です。

昨季プレミアリーグを8位で終えたトッテナムは、欧州へのルートを閉ざされています。アンジェ・ポステコグルーはいい監督ですが、ワールドクラスのスターを引き留められるほどのカリスマはありません。夏のマーケットが終わるまでに、ハリー・ケインが契約を延長する可能性はゼロ。来年の5月までにサインする可能性も、限りなくゼロに近いといわざるをえません。

つまり今、ダニエル・レヴィ会長がエースを出さないと宣言すれば、勝ち目が薄いギャンブルの時間に突入することになります。マンチェスター・シティへの移籍が実現せず、バイエルンにもいけないとなれば、プレミアリーグ213ゴールのストライカーは、自らの意志で次のステージを選べる状況を確保しようとするでしょう。

停滞が長引くのを怖れているのは、エースストライカーが決まらないバイエルンの経営ボードだけではありません。ディールが成立したら、即座に後釜を探さなければならないスパーズのスカウティングチームも早期の決着を望んでいます。膠着状態の継続をプラスと捉えているのは、せめて移籍金を最大にしたいダニエル・レヴィだけなのかもしれません。

両チームの代表が月曜日にロンドンで会談したとき、評価額には2500万ポンドのギャップがあったと伝えられています。1億ポンド超を主張するスパーズの会長は、そのスタンスを変えずにシャッターを下ろせるでしょうか。マンチェスター・ユナイテッドやチェルシー、ニューカッスルにとっては、「スパーズ残留＝フリーでゲットできるラッキーチャンス」です。

一方、ノーというひとことが聞こえてきたら、バイエルンは手を引くのでしょうか。試合数が少ないブンデスリーガの開幕は2週間後です。プレミアリーグで30ゴールを決めたイングランド代表のキャプテンより、量産を期待できるゴールゲッターはいないといい切っていいでしょう。

「アスレティック」のティム・スパイヤーズ記者は、金曜日の深夜を返答期限としたバイエルンの通告を「ultimatum（最後通牒）」と表現しています。スパーズの会長が関わったさまざまなディールを見てきた記者は、「レヴィに最後通牒を突きつけたところで、好意的な反応が返ってくるとは思えない。動揺させることすらできないだろう」と指摘しています。

「以前にある代理人が、『アスレチック』にこんなことを語ってくれた。彼は交渉における議論を楽しんでいる。提示した評価額よりも低い額で決めろと要求されたら、ひたすら議論を続けるだけだ。関係者のひとりは、困難な状況でも淡々としているレヴィを見て、彼の静脈には血が流れていないとジョークを飛ばしている」

ファブリツィオ・ロマーノさんが、スパーズはヴォルフスブルクのDFミッキー・ファン・デフェンと4300万ポンドで口頭合意に至ったと伝えています。現地時間は22時過ぎ。「スカイスポーツ」のダルメシュ・シェス記者は、「バイエルンのアレは、今週末までに決着をつけなければ追い詰めてやるぞというだけの、ちょっとした瀬戸際作戦なのかな？」とつぶやいています。

稀代のストライカーをリスペクトするひとりのファンとしては、プレミアリーグに残って最多ゴール記録を打ち立ててほしいという思いがあります。その一方で、現状をフラットに見ると、「プレミアリーグのクラブに出したくない、移籍金ゼロで出ていかれたくないという2つの条件を満たしたければ、バイエルンに歩み寄るしかないのでは？」と思います。

イギリスは日付が変わりました。現地からの新たなニュースはありません。状況をキャッチアップするのに時間がかかっているのか、あるいはレヴィ会長がスルーしたのか。続報が入ったらお伝えしたいと思います。いざ移籍決定となったら、思っていた以上に寂しさを感じるような気がしてきました。初めて彼を見てから、12年が経つんですね…。