偏愛的プレミアリーグ見聞録

マイアミを拠点とする投資会社「777パートナーズ」が、エヴァートンの株式の94.1%を保有するファルハド・モシリからすべてを買い付ける契約を交わしたのは、2023年9月15日。当時は「年内に買収は完了する」とアナウンスされていたのですが、8ヵ月が過ぎた今も話は進んでおらず、5月末をもって株式購入の契約（SPA）は無効となります。

今回の買収スキームが頓挫したのは、777パートナーズがプレミアリーグが定める条件をクリアできず、理事会からゴーサインが出なかったからです。悪しき噂が多いこの投資会社は、「MSPスポーツキャピタル」がエヴァートンに貸し付けた1億6000万ポンドの融資を返済できず、所有するスタンダール・リエージュとヴァスコ・ダ・ガマも多額の支払いの問題を抱えています。

「アスレティック」によると、彼らはロンドンの資産運用会社2社から詐欺で告発されており、事業再建のエキスパートを招聘して救済プランを講じているそうです。この状況を好機と見た複数の企業がモシリにアプローチしているようですが、SPAが切れていない状態で他社と交渉すると訴訟リスクがあると考えるオーナーは、すべての話を断り続けていると伝えられています。

「リヴァプールエコー」でエヴァートンを担当するクリス・ビーズリー記者は、「1年前に買収交渉が決裂したMSPスポーツキャピタルが、クイックに買収しようとする可能性がある」とレポートしています。新たな資金が早期に入らなければ、777パートナーズから2億ポンドを借り入れているクラブはキャッシュがショートし、破綻してしまうと見る向きもあるようです。

クラブ経営に失敗したファルハド・モシリは、厳しい状況を乗り越えられるのでしょうか。SPAのフリーズがなかったとしても、エヴァートンはPSR遵守のために目の前の赤字を解消しなければなりません。6月30日までにできることは、主力の売却以外になさそうです。年度内で利益を計上するために、イラン系イギリス人オーナーに残された期間は16日しかありません。

まとまった金額が入ってきそうなのは、守護神ピックフォード、21歳のCBブランスウェイト、人気銘柄のアマドゥ・オナナ、昨季プレミアリーグで35試合3ゴール6アシストのドワイト・マクニール。最前線のカルヴァート＝ルーウィンは契約が残り1年となっており、焦って売ろうとすると足元を見られるでしょう。

いや、既に主力の値下げを要求しそうなクラブがあるようです。「スカイスポーツ」のメリッサ・レディ記者とライアル・トーマス記者は、マンチェスター・ユナイテッドがブランスウェイトの獲得をめざしていると伝えています。移籍金は6000万～7000万ポンド。エヴァートンが破綻の危機と煽った「ザ・サン」は、「クラブの評価額8000万の半額になるかも」といっています。

マン・ユナイテッドとしては、ブランスウェイトがイングランド代表から外れて交渉がしやすくなり、エヴァートンの資金繰りの目処が立つ前に安く手に入れるのがベストシナリオでしょう。プレミアリーグ2923-24シーズンは、35試合3ゴール。ショーン・ダイクの最終ラインの軸として活躍したCBは、マグワイア＆リンデロフとのポジション争いに懸念はないはずです。

PSR違反で8ポイントを剥奪されながらも残留を果たしたマージーサイドのクラブは、ブラムリー・ムーア・ドックの新スタジアムのオープンをプレミアリーグで迎えられるのか。マン・ユナイテッドは首尾よく弱点を補強できるのか。CBの去就については何ともいえませんが、ファルハド・モシリがキャッシュを必要とするなら、オファーを受け入れるしかありません。