偏愛的プレミアリーグ見聞録

2021年7月11日、聖地ウェンブリー。イングランド代表にとって、過去半世紀で最も誇らしい時間でした。ホームで戦えるユーロ2020ファイナル。開始2分にルーク・ショーのゴールで先制し、トロフィーに向かって突き進んだチームは、ボヌッチの同点ゴールの後、PK戦で3人が外して敗れ去りました。

2018年のワールドカップロシア大会で、28年ぶりの準決勝進出。ユーロの決勝は、史上初の快挙です。その4年前、ロイ・ホジソンがニースでアイスランドに逆転負けを喫し、後を継いだサム・アラダイスはスキャンダルによって67日でジ・エンド。サッカーの母国にとって、ガレス・サウスゲートは救世主でした。

だからここまで、代えられなかったのでしょう。

イタリア、ドイツ、ハンガリーと戦うネーションズリーグは、監督のクビがつながっているのが奇跡に感じられるぐらいの惨状です。5試合で2分3敗、ハリー・ケインのPK以外にゴールなし。2014年6月、ロイ・ホジソンの下で戦ったワールドカップブラジル大会のグループステージ敗退以降、5試合連続勝利ゼロは初めてです。

オープンプレーでの最後のゴールは、3月のコートジボワール戦のラヒム・スターリング。公式戦となると、サンマリノを10-0で下した2021年11月のワールドカップ欧州予選まで遡ります。5試合連続で前半にゴールがなかったのは、1985年6月以来37年ぶり。3試合連続ノーゴールは、2000年11月が最後です。

14ヵ月前の恍惚の時間から、一転どん底。1-0で敗れたサンシーロのイタリア戦は、ハリー・ケインがドリブルで仕掛ける速攻と、枠にいかないミドルばかりが目立ち、ワールドカップ出場を2回連続で逃した国に何度も決定機を許しました。

この状況を、メディアが静観するわけがありません。イングランド代表の指揮官に対する批判は、3つに分かれます。「以前から重宝している選手への依存度が高い」「プレーメイカーの不在」「適材適所とはいえない配置」。槍玉に挙がっているのは、ユーロ2020での3発以降、ゴールが激減したスターリングと、プレミアリーグで出番を減らしているのに起用されるマグワイアです。

「BBC」のフィル・マクナルティ記者は、「スターリングは貧弱だった」「ブカヨ・サカは、試合前に自国の年間最優秀選手に選ばれた報酬が、左ウイングバックという不慣れなポジションだった」と表現。「テレグラフ」のチーフフットボールライター、サム・ウォレスさんは、前線と後方をつなぐプレーメイカーの不在を嘆き、「サウスゲートはジェームズ・マディソンを信頼したことがない」と指摘しています。

メディアの集中砲火を浴びているサウスゲート監督にとって、最大の誤算は主力の同時多発スランプでしょう。マグワイアは自信喪失、ジョン・ストーンズはひと頃の安定感を欠き、CBを固定できず。ストライカーの後ろに配したかったメイソン・マウントと、右サイドからの突破を買っていたボーウェンは、プレミアリーグ開幕から未だノーゴールです。

グリーリッシュはマン・シティで真価を発揮できておらず、ラシュフォードは復調途上、ヘンダーソンは負傷明け。カルヴァン・フィリップスは肩を痛め、手術すればカタール行きは微妙といわれています。

元気なCBはフィカヨ・トモリとエリック・ダイアーぐらいで、中盤センターはデクラン・ライスとベリンガムの一択。窮地に追い込まれた指揮官は、チェルシーでモチベーションを高めているスターリングの何がいけないのかと逆襲したいのではないでしょうか。

何はともあれ、ガレス・サウスゲートは続投。明日のドイツ戦が、大会前の最後のゲームとなります。今からプラス材料を加えるとしても、メイソン・マウントとジャック・グリーリッシュのコンディションを高めるぐらいしか、策が見当たりません。

時間があれば、イヴァン・トニーやアンソニー・ゴードンを試してみたいところですが…。デル・アリのバーンアウトとスミス・ロウの負傷も痛かったですね。史上最強チームで世界制覇をめざすはずだったイングランドにとって、カタールは苦しい場所になりそうな雲行きです。