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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

早すぎたローブロック、5バック。トゥヘルのプランが瓦解したイングランド、残酷な逆転劇。

イングランドVSアルゼンチンほど、「因縁の対決」という言葉がふさわしい対決はないでしょう。フットボールの母国が初優勝を遂げた1966年の準々決勝は、アルゼンチンのキャプテンを務めるラティンにレッドカード。1986年はディエゴ・マラドーナの神の手と5人抜きが伝説と化し、1998年のラウンド16ではシメオネにの挑発に乗ったベッカムが退場となっています。

2002年の札幌も激しい展開で、ポチェッティーノがオーウェンの足を引っかけてPKを献上。ベッカムが真ん中に決めて、リベンジを果たしました。ワールドカップでは、3勝2敗でイングランドがリード。しかし今回は、メッシがゴールラッシュのアルゼンチンを推す声が多いのではないでしょうか。決戦に臨むトゥヘル監督は、右サイドにヴィラのアタッカーを配しています。

ピックフォード、リース・ジェームズ、ジョン・ストーンズ、マーク・グエイ、ジェド・スペンス、デクラン・ライス、エリオット・アンダーソン、モーガン・ロジャース、ベリンガム、アンソニー・ゴードン、ハリー・ケイン。最終ラインと中盤は納得の顔ぶれですが、ブカヨ・サカとノニ・マドゥエケのアーセナルコンビは両方ともベンチです。

6度めのバトルは攻め合いとなるのか、両者ともに負けない戦い方に徹するのか。開始早々からアグレッシブにプレスをかけていたイングランドが、ポゼッションを取ってスペースを探しています。5分に左サイドで2人かわしたジェド・スペンスは、ノースロンドンでチームメイトのロメロがスライディングでカット。7分に右から突破を図ったのはモーガン・ロジャースでした。

ニアに入れたクロスは、アンソニー・ゴードンに届かず。アルゼンチンは厳しいプレスでパスコースを消されており、10分を過ぎても攻撃に転じるチャンスを得られずにいます。15分に左からカットインしたアンソニー・ゴードンは、5人に囲まれて打てませんでした。徐々にラインを上げたアルゼンチンは、右サイドにいたメッシが中央でもらおうとするシーンが増えています。

フリアン・アルバレスが左から仕掛けたのは21分。ファーに上がったクロスを受けたメッシが胸で中央に落とすと、エリオット・アンダーソンにクリアされました。ハイドレーションブレイクまで、シュートゼロのナーバスな展開。33分の左からのFKは、デクラン・ライス。逆サイドから上がったジョン・ストーンズのヘッドは、右に外れました。

36分にリース・ジェームズが左から狙ったFKは、エミリアーノ・マルティネスが冷静にパンチ。38分のメッシの強引なミドルはブロックされ、左隅に打ったエンソ・フェルナンデスのロングシュートはクロスバーすれすれを抜けていきました。前半は0-0、イングランドのポゼッションは44%で、シュートは1対2。ハリー・ケインもメッシも、最初の45分はノーチャンスです。

エミ・マルティネスのロングフィードが前線に入ったのは47分。ジュリアーノ・シメオネが頭で右に落とし、ジェド・スペンスをかわしたフリアン・アルバレスがボックス右からニアを狙うと、ピックフォードが左手を伸ばしてセーブしました。こぼれ球を拾った9番の2発めも、守護神が指先で触ってCK。直後に右から仕掛けたメッシは、ベリンガムが体を張って止めています。

ハリー・ケインが自陣に引いて、右サイドにロングボールを出したのは55分。カットされたボールを拾ったデクラン・ライスがモーガン・ロジャースに預けると、完璧なクロスがゴール前に入りました。右足で押し込んだのは、モリーナの背後から走り込んできたアンソニー・ゴードン。サイドアタッカーのポジションを上げていたアルゼンチンは、テンポを上げてくるはずです。

57分にリサンドロ・マルティネスのトラップミスをさらったモーガン・ロジャースは、ハリー・ケインへのパスがずれてしまい、逆襲に転じたアルゼンチンはエンソ・フェルナンデスの絶妙なスルーパスがジュリアーノ・シメオネに通りました。GKと1対1になる寸前に、超速で戻ったジェド・スペンスがスライディングでクリア。勝てばMVPに選びたくなるファインプレーでした。

残り30分を切ると、完全なるアルゼンチンペース。ボックス手前でボールを呼び込むメッシのパスがひとつでも通れば、スコアはイーブンに戻るでしょう。メッシの浮き球が、ボックス左でフリーになったニコ・ゴンザレスに届いたのは65分。頭で折り返したボールは、タグリアフィコをケアしていたジョン・ストーンズがクリアしました。

66分には、ハリー・ケインのサイドチェンジが右のリース・ジェームズへ。落としを受けたデクラン・ライスのダイレクトショットは、エミ・マルティネスがキャッチしています。69分のメッシのクロスは、ゴール前のニコ・ゴンザレスにぴったりでしたが、ピックフォードの足元に落としたヘッドはビッグセーブに阻まれました。

トゥヘル監督は72分にアンソニー・ゴードンを下げ、コンサを投入。ローブロックでリードを守り切ろうとしているようです。76分のデパウルのクロスに飛び込んだマック・アリスターのヘッドはポストにヒット。82分にデクラン・ライスとリース・ジェームズの後を継いだのは、ニコ・オライリーとダン・バーンです。チェルシーのキャプテンは、足を痛めたのでしょうか。

トゥヘル監督の目論見が崩れたのは、エンソ・フェルナンデスのミドルをGKがセーブした直後の85分。ショートコーナーからメッシがエンソ・フェルナンデスにパスを通すと、右足インサイドで巻いたミドルが左隅に決まりました。追加タイムは9分、押しているのはアルゼンチン。92分のマック・アリスターの一撃がポストを叩くと、メッシの右からのクロスがファーに入りました。

頭で押し込んだのは、途中出場のラウタロ・マルティネス。イングランドは、攻めるしかありません。96分、ジョン・ストーンズとジェド・スペンスに代わってラシュフォードとイヴァン・トニー。急造の布陣で放り込みを続けたスリーライオンズはシュートを打てず、60年ぶりの戴冠という夢は無残に消え去りました

後半のハイドレーションブレイクの後、シュートは1対8。先制ゴールから同点ゴールまでの31分、イングランドのポゼッションは12%で、ミドルを許して逃げ切りに失敗した瞬間、勝負は決したように見えました。交代カードを十全に活かしたスカローニ監督と、5バックにシフトして猛攻を招いたトゥヘル監督の差が、逆転という結果につながった一戦といえるでしょう。

パリ戦のアーセナル、ブラジル戦の日本、そしてイングランド。早すぎたローブロック戦術は、ひとつのミス、1本のシュートによって瓦解しました。トゥヘル監督の失敗が教えてくれたのは、こういう展開で組織力と個の力を天秤にかけて評するのはナンセンスだということ。個の力というものは、戦術によって大小が変わるのでしょう。

ハリー・ケインとベリンガムは、ヒーローになるのは諦めろと諭されるような耐え難い時間を過ごし、その代償となる果実を得られずに終わりました。逆転された後、右サイドを崩そうとするコンサを見て、絶望的な気分になりました。アレクサンダー=アーノルドやコール・パルマーがいれば…敗者が必ずはまる空疎な結果論を止めたければ、精神的なパワーが必要です。

フランスを封じたスペインと、勝負強いアルゼンチン。ファイナルにふさわしい一戦です。灼熱の祭りの終わりを飾るラストバトルを、無心に愉しめればとイメトレに励んでいます。マンチェスター・ユナイテッドを愛する者にとっては、チャンピオンズリーグで悔しい思いをさせられたスペインとメッシを見続けるのは、愉快な時間ではないのですが…。


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