偏愛的プレミアリーグ見聞録

日本のサッカー専門メディアが煽っている「ジョゼ・モウリーニョ監督とデル・アリが衝突し、関係修復は不可能」という噂は、ホントなのでしょうか。イケル・カシージャス、エデン・アザール、ポール・ポグバ…かつて率いたチームで主軸と揉めてきた指揮官ゆえ、エキセントリックなキャラに乗っかったゴシップのようにも感じられます。出典とされている「デイリー・メール」の表現は、「モウリーニョはデル・アリを復活させようとしたが、失敗した」「エヴァートン戦のハーフタイムで交代となった瞬間、関係は完全に崩壊した」。フットボールに集中できていなかったトップ下のモチベーションを高めようとした名将が、厳しいパフォーマンスを見て匙を投げかけていると伝えています。

記事が指摘するとおり、デル・アリは4年前とは別人になった感があります。2016-17シーズンのプレミアリーグで37試合18ゴール9アシスト。21歳にしてリーグ屈指のプレーメイカーと絶賛されたスパーズのMFは、年を経るごとにゴールに絡む率が下がっています。2017-18シーズンは、プレミアリーグ36試合で9ゴール11アシストとまずまずでしたが、翌シーズンは5ゴール3アシスト。昨季は負傷で出遅れ、8節まではまったく機能せず、ポチェッティーノ体制の混乱と指揮官解任の要因のひとつとなってしまいました。

モウリーニョ監督の就任直後は、プレミアリーグとチャンピオンズリーグの5試合で4ゴール3アシストと復活の兆しを見せており、エリクセン去りし後の中盤のエースと目されているのは明らかでした。ところが、その後は持ち味のゴール前への飛び出しが減り、コロナウイルス感染拡大前の13試合で3ゴール1アシストと失速。6月以降は筋肉を傷めたこともあり、3試合の出場時間は78分に留まりました。

「デイリー・メール」は、Amazon提供のドキュメンタリー番組「All or nothing」を紹介。映像を見れば、ホットスパー・ウェイと呼ばれるトレーニング施設とリリーホワイト・ハウスにおけるモウリーニョ監督が、「デル・アリのために多大な時間とエネルギーを費やしていたのは明らか」と指摘しています。トップフォームのデル・アリがチームにもたらす価値を理解していた指揮官は、「パーティーボーイ」といわれるライフスタイルを変えるべきであり、才能にふさわしい結果を得られなかったときの後悔について語ったとのこと。エヴァートンに敗れた後、「怠惰なプレッシャー」と自軍をディスったのは、前半の彼の姿勢に対して深い絶望感を抱いていたからだったのでしょう。

「デル・アリは道に迷い、トッテナムは諦めた」。メディアの指摘が事実であれば、悩める24歳は残り2週間となったトランスファーマーケットに放り出されることになります。「インテルには、情熱的でインスピレーションを与えてくれるアントニオ・コンテがいる」「もし、誰かがケツを蹴り上げてくれれば、デル・アリは自らを燃え立たせる必要に迫られるのではないか。それは、いい賭けだろう」。セリエAのクラブに加えて、パリ・サンジェルマンが移籍先の候補といわれています。

冬の不振のきっかけが「ポチェロスからの環境激変に対する戸惑い」なら、出場時間を重ねれば、いずれ彼らしいプレイが戻ってくるはず。メンタルや姿勢に問題があってパフォーマンスが落ちたのなら、居場所を変えて刺激を得るのもいいかもしれません。ガレス・ベイル獲得間近といわれているクラブは、代役の検討も含めて、フラットに判断するのではないでしょうか。

いくつかの日本メディアは、「All or nothing」の紹介からの指揮官とヤングスターのエピソードを意図的に外して、「衝突」をクローズアップしています。モウリーニョ監督がデル・アリのプレイに納得しておらず、プレスの前で苦言を呈したのは確かですが、引用した記事にあった「指揮官は復活を願って苦心していた」という話をスルーするのはフェアではないのでは？と思いました。不振といっても、昨季プレミアリーグの25試合8ゴール4アシストはまずまずの数字です。どこでプレイすることになるとしても、ボックス内で見せる意外性のあるパスと素晴らしい飛び出しを見せていただければと思います。見た目によらず、ヘディングがうまいんですよね…。