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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

最初の失敗は人材とノウハウの流出…現地メディアが振り返る「12ヵ月にわたるチェルシーの混乱」

買収額42億5000万ポンド、4人のヘッドコーチ、移籍市場で費やした6億ポンド。「12ヵ月にわたるチェルシーの混乱」と題した「スカイスポーツ」のレポートは、冒頭に鮮烈な数字を並べています。2年前に欧州の頂点に立ったクラブは、なぜここまで転落してしまったのでしょうか。ジョー・シュレッド記者の特集記事とともに、カオス渦巻く1年を振り返ってみましょう。

トーマス・トゥヘル監督の下で、2021-22シーズンは3位だったクラブは、12位に沈んだまま失意のシーズンを終えようとしています。リーグで16敗は、プレミアリーグ創設後のワースト。公式戦22敗は、1978-79シーズン以来44年ぶりの厳しい戦績です。

現地メディアが指摘する最初の失敗は、新オーナーのトッド・ベイリーとパートナーのベハダ・エグバリが、実績があるスタッフを根こそぎ手離したことです。ブルース・バック会長、ディレクターのマリナ・グラノフスカイヤ、テクニカルアドバイザーのペトル・チェフはやむなしだったとしても、各分野のスペシャリストの退団は現場の混乱を招きました

記事に登場する「アスレティック」のリアム・トゥーミー記者は、「メディカルディレクターのパコ・ビオスカと理学療法士のティエリー・ローランをはじめ、ありとあらゆる部門で長年務めたキーマンが退職してしまい、フォファナのメディカルチェックがニューヨークで行われるという異例の事態が生じていた」と回想しています。

プレミアリーグを知るスタッフがいなくなったため、補強や人事への関与を求められたトゥヘル監督は、現場に専念したいという理由で拒否。新戦力獲得の遅れを嘆いた指揮官と経営ボードの溝は広がり、CLのザグレブ戦を1-0で落としたことが解任のトリガーとなってしまいました。

ベイリーとエグバルが求めたのは、ハイレベルな戦術を用いて欧州で勝った監督ではなく、自分たちの意に沿う人物でした。後任のグレアム・ポッターは、ビッグクラブで仕事をした経験がありません。トゥヘルの下で活躍するはずだったオーバメヤンやスターリングは機能しなくなり、ブルーズの戦績は徐々に下降線を辿っていきます。

12節のブレントフォード戦からの3ヵ月は、プレミアリーグ9試合で1勝3分5敗。トゥーミー記者は、ポッターのチームが崩壊したきっかけについて、「古巣ブライトン戦の4-1惨敗」を挙げています。「仕事でも趣味でもCLの試合を観戦したことはない」と語っていた若い指揮官は、タイトなスケジュールについて「洗濯機のなかにいるようだ」とこぼしていたそうです。

ワールドカップによる中断は、チームを立て直す機会にならず、年が明けるとベイリーが混乱を増幅させる愚挙に出まました。冬のマーケットで3億2000万ポンド以上を投じ、9人を獲得。23歳以下に限定したのは、マルティネッリやサカの躍動に触発されたからでしょうか。負傷者が多く、弱点の補強が必要だったとはいえ、ジョルジーニョ以外に売却ゼロでは…。

ビッグクラブにカルチャーショックを受けていた指揮官に対して、総勢30人のマネジメントというミッションを上乗せするのはあまりにも酷です。新戦力の多くはフィットせず、ジョアン・フェリックスやエンソ・フェルナンデスのクオリティは、成果に直結しませんでした。

トゥーミー記者は、「2月のセインツ戦とトッテナム戦で連敗し、サポーターの怒りが膨らんだことが解任につながった」とレポートしています。多すぎるメンバーが入りきらないロッカールームの雰囲気は険悪で、一部の選手は指揮官を「ハリー(・ポッター)」「ホグワーツ」と呼んで茶化していたそうです。

「就任後の31試合で、わずか12勝しかできなかったにもかかわらず、ポッターに同情する声は多い。2つのウインドウをまたぐ大盤振る舞いは、お互いを知らない選手たちで効果的なチームを作るというほぼ不可能な課題をポッターに残しただけだった。19人のどのサインも、前線の空白を埋められていない」

「誰も売らずに、大量の選手と契約したことが、ドレッシングルームのダイナミクス、サラリー体系、数日ごとに準備が必要となるトレーニングのロジスティックスに壊滅的なダメージをもたらした。それらがチームの結果に与える影響について、彼らは完全に過小評価していた」(リアム・トゥーミー)

選手たちのモチベーションが下がりきったところに登場したフランク・ランパードが、妥当な戦術を持ち込んだとしても、チームを上昇させられなかったのではないでしょうか。「スカイスポーツ」の評論家、ポール・マーソンさんは「彼はクラブのレジェンドだけど、選手たちにとってはそうではない」と喝破しています。

オーナーが友人のジェームズ・コーデンから「ランパードを連れてくればいい」と勧められたというゴシップは、さらなる不信感を醸成。負けた試合後にビジネスパートナーを引き連れてロッカーに乗り込み、最大1時間の説教をするという彼の習慣は、選手たちのやる気を削ぐばかりでした。

ロマン・アブラモヴィッチの降臨以降、チェルシーを率いて勝率が40%を切った監督は3人だけです。2015-16シーズンにジョゼ・モウリーニョ解任の後を受けたフース・ヒディンク、そして今季のポッターとランパード。1勝1分8敗の現指揮官がぶっちぎりのワーストであることは、いうまでもありません。

最悪のシーズンを終えようとしているチェルシーは、マウリシオ・ポチェッティーノを迎えると報じられています。スパーズをCLファイナルに導いたマネージャーによって、ダメージを受けたクラブは鮮やかに復活するのでしょうか。

「テレグラフ」のマット・ロウ記者が「ビジネス部門のチーフだったトム・グリックが辞任する」と伝えています。マンチェスター・シティのCEOだったグリックは、9月に不祥事で解任されたコマーシャルディレクターのダミアン・ウィロビーを連れてきた人物です。わずか10ヵ月の短命政権。クリス・ジュラセック新CEOが自分の上に立つのを嫌ったのでしょうか。

経営ボードは未だ不安定ながら、新指揮官との交渉は、テクニカルディレクターのローレンス・スチュワートとグローバルタレント&トランスファーのリサーチ担当ディレクターを務めるポール・ウィンスタンレーの2人が主導しています。オーナーがFD兼任といういびつな体制が終わり、監督と連携しながら方針を明確にできれば、早期に復活を遂げられるかもしれません。

チェルシーの希望は、伸びしろがあるヤングスターが揃っていること。ムドリク、バディアシル、ルイス・ホール、ノニ・マドゥエケは、新シーズンにブレイクが期待できるのではないでしょうか。まずは、新監督の正式決定と戦力の整理から。プレミアリーグに集中する来季のスカッドを固めるプロセスに注目しましょう。


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