2026.05.12 アーセナルの話題
ダヴィド・ラヤ、トロサール…最大の危機から歓喜に辿り着いたアーセナルの濃密な5分を振り返る。
ダヴィド・ラヤの胸に肘を当てたパブロ・フェリペは腕をつかんでおり、背後にいたトディボもGKのシャツを引っ張っていました。双方に熱狂的なサポーターがいるなかで、ジャッジがどちらに転んでも、クリス・カヴァナーは批判を免れなかったでしょう。オンフィールドレビューで17回も問題のシーンを見直したのは、自らの覚悟のためだったのかもしれません。
ガナーズにとっては0-1と1-1は天国と地獄ですが、ハマーズは1ポイントを加えても、スパーズが3連勝となれば苦しくなります。勝負のターニングポイントは、最後のジャッジではなく、あの5分の攻防でした。マテウス・フェルナンデスと1対1になったダヴィド・ラヤの神セーブから、レアンドロ・トロサールが決勝ゴールを叩き込むまでの濃密な時間です。
激痛の失点を回避してから歓喜のゴールまでのグラデーションを、あらためて振り返りましょう。GKハーマンセンが前線に蹴り込んだのは78分。サリバのクリアをカットしたマテウス・フェルナンデスは一気に加速し、パブロ・フェリペとの完璧なワンツーでサリバを置き去りにしました。前にいるのはラヤのみ。右隅へのコースが空いていました。
ガナーズの守護神が至近距離からの一撃を止められたのは、21歳のMFの右足がボールに触れる直前まで動かなかったからでしょう。右に流し込むと見せかけて、インフロントでニアに蹴ると、瞬時に右足でコースを塞ぎました。成り行きを見守っていたヌーノ・エスピーリト・サントは両手を広げて天を仰ぎ、ミケル・アルテタは掌で顔を覆って安堵の表情を浮かべています。
ボーウェンのCKをソーチェクが頭に当てると、ボックス左で拾ったギョケレスが大きくクリア。直後にサマーヴィルに抜かれたモスケラは後ろからシャツをつかみ、イエローカードを突き付けられました。アルテタ監督の最大の手柄は、昨シーズンまで聖域となっていたブカヨ・サカをここで下げ、ノニ・マドゥエケを投入したことです。
10分前にカイ・ハヴェルツとウーデゴーアを入れた際に、途中出場のズビメンディをひっこめた指揮官は、ラヤのビッグセーブがなければ采配ミスを咎められていたはずです。最初の失敗は、ベン・ホワイトが負傷リタイアとなった28分。ズビメンディをピッチに送り出し、デクラン・ライスを右のSBにまわしたのは、攻撃的な布陣で早く決めたかったからでしょう。
それまでのシュートは9対0。デクラン・ライスの推進力とカラフィオーリのオーバーラップが脅威となっていたアーセナルは、中盤のサイドで奪われるシーンが増え、前半終了間際にはカスティジャノスにきわどいヘッダーを許しています。41番をサイドに閉じ込めたのはまずかったと思い直した指揮官は、ハーフタイムにモスケラを投入し、デクラン・ライスを中盤に戻しました。
これで攻めに転じるかと思いきや、初めてのコンビだったズビメンディ&ルイス=スケリーは連携できず、中盤の主導権を握られてしまいました。0-0のままで打開策が見えず、キャプテンと長身のレフティを入れたものの、サカのサイドはディウフとサマーヴィルに制圧されています。そんななかでゲームチェンジを託された20番は、試合の展開を決定的に変えてくれました。
強引なカットインが目立っていたサカに対して、ノニ・マドゥエケはタッチライン沿いで勝負するシーンが多く、横に広がったハマーズの守備陣はスペースを使われるようになりました。ウーデゴーアのスルーパスで、ノニ・マドゥエケがボックスの右脇に出たのは81分。ウインガーの縦パスで、カイ・ハヴェルツが右に流れたのは82分。右サイドの景色は確実に変わっています。
カイ・ハヴェルツのグラウンダーがクリアされると、スローインからノニ・マドゥエケとパスをかわしたウーデゴーアが絶妙な斜めのパスをボックスに通しました。フリーになったレフティが右足で折り返すと、デクラン・ライスの前でソーチェクがクリア。モスケラも絡んだパスワークから、ウーデゴーアがデクラン・ライスに預けてリターンをもらったのは、83分でした。
2人を引き付けたキャプテンがトロサールの足元にラストパス。右足のシュートは、ソーチェクのスパイクの裏をこすって右隅に突き刺さりました。決まった瞬間、両手を挙げて膝から崩れたキャプテンは、頭をピッチにつけて喜びをかみしめています。自らの失敗を認め、右サイドに狙いを定めて立て直した指揮官は、必死の戦術を称えられるべきでしょう。
アーセナルがこういう勝ち方ができるようになったのは、的確な補強でスカッドの多様性を高めたからです。ギョケレスとカイ・ハヴェルツ、エゼとウーデゴーア、サカとノニ・マドゥエケ…。そうはいってもバーンリー戦は、立て直し策を要しない快勝でクリアしてもらえればと思います。戴冠をめざした長期的なプロジェクトは、果実をもぎ取る手前に辿り着いています。
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