イングランドのプレミアリーグ(ときどきチャンピオンズリーグ)専門ブログ。マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、リヴァプールetc.

偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

現地レポート~素晴らしいスタジアム、素晴らしいファン。最後のEL、アトレティコ・マドリード戦!

本日は、プレミアリーグ2017-18シーズンの最終節。アーセン・ヴェンゲル監督がアーセナルで指揮を執る最後の日です。そんな朝にふさわしいのではないかと考え、今回は、ヨーロッパリーグのアトレティコ・マドリード戦とプレミアリーグのバーンリー戦を観戦した、わがグーナーの特派員の現地レポートをお届けします。まずは前編のマドリード紀行から。せつなかったあのワンダ・メトロポリターノの夜を語り切っていただきました。さっそく、どうぞ!

5月6日のプレミアリーグ37節、アーセナルのホーム最終戦を見るために、何とか都合がつきそうだとロンドンまでの航空券と宿を取ったのが4月17日。6日のチケットも確保し、「この日程ならマドリード(ヨーロッパリーグ準決勝、アトレティコ・マドリード戦の2ndレグ)にも行けるけど……」と迷っているうちに、ヴェンゲルの退任が発表されるという劇的な展開。すぐに6日のホームゲームのチケットは売り切れ、「これはマドリードもダメかもね」と思っていたのですが、4月24日、改めて公式サイトをチェックしてみると、上級会員向けの限定販売が終わってレッドメンバー(平会員)向けの販売が始まっているではありませんか!レッドメンバーまでは回ってこないと思っていたのに、まだ残っているということはこれも運命……と、36.5ポンドのチケットを購入するところから、わがマドリード行きプランがスタートしました。

試合のチケットは拍子抜けするくらい安いのですが、手ごわいのが航空券です。ロンドン-マドリード間はふだん、安い日程なら日本円で1万円程度で往復できてしまうのですが、試合の日程が決まったその日から航空券の値段は急上昇。ヨーロッパのアウェイマッチでは、航空券の手配はチケット確保以上の最優先事項なのです。実際、ロンドン在住の私の友人も、ドローが決まったその日に航空券を探したそうですが、迷っている間にもどんどん値上がりしていくという状況だったとか。そんな状況なので、試合の10日前ではそもそも取れる航空券自体が希少。乗り継ぎもやむなしか……と思っていたところ、いろいろあって何とか直行便を見つけることができましたが、そのかわりマドリード到着は深夜。初めての街に深夜バスで何とか乗り込み、こちらもやっと見つけた安宿には無理を言って午前1時台にチェックインさせてもらうというハードスケジュールです。そうやって必死で手配したのに、勝てそうだった26日の1stレグはまさかのドロー。すでに修行の予感が漂っていました。

ちなみにチケットは、アーセナル公式が「郵送する」というのをわざわざ連絡して止めてもらい(だって絶対日本出発までに間に合わない!)、後日引き取り方を案内してもらうことになりました。ようやくその案内が来たのは、ロンドンに入ってからの4月30日。「マドリードのインターコンチネンタルホテルで配るので、当日13時30分~14時30分の間に来るように」というもので、またこれがやりにくい……。というのも、キックオフは21時。それまでどうやって過ごそうかなと考えていたのに、その時間にそこに行くとなると選択肢は激減します。そもそも、それより遅い便で現地入りする人だっているだろうに、その人たちはどうするの!?という話。まあアーセナルがユーザーフレンドリーでないことには慣れていますが、本当にヨーロッパのアウェイは何かと大変です。

ともかく、そんなこんなで何とかチケットを引き取り、そこに来てくれた友人と合流して、16時まで入れるという有名レストランで遅いランチを取ることにしました。「世界最古のレストラン」としてギネスにも認定されている「リストランテ・ソブリノ・デ・ボティン」 という店(子豚の丸焼きで有名)です。イギリス国内なら、アウェイの地をアーセナルのシャツを着てうろうろするのは基本やめたほうがよいのですが、ここは観光客が多いこともあってなんとなく大らかなムード。途中ウエイターさんに「アーセナルサポか?」と聞かれて「はいスミマセン……」みたいに答えたら、「いいんだこっちはレアルサポだし」と返されたり。よかったー、豚をひと切れ減らされたりしなくて!ちなみに名物の子豚のローストは、皮はぱりぱり、肉はねっとりゼラチン質の、それはそれは美味しい一品でした。

食事を終えて外に出ると、それでもまだ17時前。スタジアムに向かうのは早い、かといってどこか観光するほどの時間もないということで、少しぶらぶら歩いてみようということになりました。マドリードは案外坂の多い街で、レストランを出てすぐのところにも、建物を貫通するように設けられた謎の階段が。とりあえずあそこを上ってみようと行ってみると、階段を上り切ったところは建物に囲まれた広場になっていて、なんと!見慣れたシャツのみなさんが占拠しているではありませんか!「ヨーロッパの大会では、アウェイサポが広場に集まって騒ぐ」というのがお約束ではありますが、マドリードではそれがここ、「マヨール広場」だったのです。
聞きなれたエジルのチャントはエンドレスリピート、お土産売りはアーセナルのエンブレムの入ったハットを売っているし、アコーディオン弾きは「聖者の行進」を弾いていて(ちなみにこれは”We won the league♪”とアーセナルがプレミアリーグ制覇したときのことを歌う、サポお気に入りのチャントのメロディ)、まあ迎えるほうも商売っ気たっぷり(笑)。友人も私もまったく知らずに足を踏み入れたのですが、結果的に正しい過ごし方になったというかなんというか。その後、近くにあるチュロスの元祖というお店でチュロスとホットチョコレートを堪能した女子2人は、いよいよスタジアムに向かうのでした。

アウェイサポーター向けのガイドブックによれば、アウェイサポの「ミーティングポイント」はCanillejasという駅の近くの広場とのこと。そこから現地の警察が先導してスタジアムまで連れて行ってくれるという流れです。ひとまずその駅まで行ってみると、階段を上がったところにあるちょっとした空間(決して広場ではない!)に100人ほどのアーセナルサポがたむろしていました。18時40分頃になると、「はいはい行きますよ~」という感じで警察から声がかかり、みんなが歌いながら歩き始めます。しばらくはアパートの並ぶ住宅街が続き、住民が窓から見下ろすなか、騒がしい一団は意気揚々とスタジアムを目指すのでした。

そんなこんなで歩くこと30分近く。ワンダ・メトロポリターノは、埋め立て地のような何もないだだっ広い場所に建っていて、外回りはいかにも寂しい感じ。そのかわり、スタンド裏からはマドリード市内や遠くの山まで一望できてなかなかの眺めです。そして中に入ると文句なしに最高のスタジアム。収容人数約6万8000人。1階の傾斜はわりとなだらかですが、2階から上は傾斜が強く、大きさのせいもあるかもしれませんが、個人的には2年前に行ったカンプ・ノウよりずっと見やすく感じられます。アウェイ席はゴール裏の高いところに用意されていて、ホーム席との間にネットが張られているのは残念ですが、それでも見え方は最高。私の席はちょうど最上段のど真ん中で、素晴らしい見晴らしです。そして何より音が響く!ホームチームのメンバー発表は、演出やファンの熱さも相まって、敵ながらほれぼれするようなメンバー発表でした。(その様子があまりにもラヴリーだったので、こちらに動画をアップしておきます)

 それにしても、ここまでずっと「楽しみ」というより緊張していた私。それはもしかしたら、結果について何か予感することがあったのでしょうか……試合後に多くの人が語っていたほど内容が悪いとは思えなかったのですが(コシェルニの負傷の重大さも、スタンドからはわからなかった)、気が付けば例によって「あれ?前半ショッツオンゴールあったっけ?」という状態。後半、ミキの素晴らしいシュートにときめいたりはしながらも、どちらかといえば、何かと巧みなアトレティコにやられっぱなしの90分だったように思います。たとえば、徹底的にこちらをイラつかせるジエゴ・コスタのふるまいの数々。いやいやカメラに映っていないところでめちゃくちゃやってますよアイツ!!!でも、それが効果的だったのも事実なのだと思います。そしてホームサポーターの集中力。それこそ2年前のバルセロナが、全体的に弛緩して感じられたのとは正反対で、スタンドの凝縮感や一体感には敵ながら胸を打たれるものがありました。もちろんアーセナルサポも頑張ったけれど、あの日のアトレティコサポにはちょっと脱帽。寂しいことですが、いろんな意味で、今のアーセナルの「かなわなさ」を痛感する結果になりました。

そしてヨーロッパのアウェイでは、ホームサポーターが大方退出するまでアウェイサポーターは帰らせてもらえないのが恒例。屋根と壁との間にすき間があり、風が吹き抜けて寒くてしょうがないなか、われわれアウェイサポはホームサポが帰るまでひたすら待っているわけですが、決勝進出で盛り上がるゴール裏のサポはまあ帰らない帰らない!しまいになんと、一度はロッカールームに下がった選手までもう一度ピッチに出てきて、「もう優勝気取り!?」と言いたくなるような大騒ぎ。「はよ帰れー!!!」と毒づくことでカラ元気を出しながら、本当は、この結果と、それが象徴するもろもろのことについて思いを巡らせていました。

私をフットボールに引き寄せてくれたヴェンゲル。22年間のアーセナルの輝かしい歩み。せめて最後はその栄光にふさわしく、トロフィーを掲げて終わることを夢見ていたけれど、それはやはり夢でしかなくて、こうやって負けて惨めに終わるのが今のアーセナルなのだということ。言い換えれば「終わる」ということはそういうことで、とことんダメになり、全く美しくなく、だからこそ終わるのだということ……。「終わりを納得するためのプロセスとは、こういうことなのかもしれないなあ」と、風にさらされるスタンドでそんなことを思っていたのです。

悲しいけれど、こういうことだ――そんな冷たく静かな境地に、3日後、もう一度温かい灯がともる日が来ることは、このときは想像もできずに。(つづく)

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