偏愛的プレミアリーグ見聞録

「Nuno Espírito Santo appointed new Head Coach」「BENITEZ APPOINTED EVERTON MANAGER」。新たな指揮官選びが難航していたトッテナムとエヴァートンが、同じ日に決定したと発表しました。ジョゼ・モウリーニョを解任したクラブは、同郷のヌーノ・エスピーリト・サント。カルロ・アンチェロッティを失ったクラブは、交渉経緯を報じられていたラファエル・ベニテスです。

ウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズをプレミアリーグに引き上げ、2年連続で7位に導いた47歳のマネージャーは2年契約。チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ、ラ・リーガ、FAカップ、コッパ・イタリアと数々のトロフィーを手にしてきた名将は3年契約を結んでいます。まずは、それぞれのクラブのトップが公式サイトで発表したメッセージを紹介しましょう。

「まず最初に、ヌーノに歓迎の意を表したい。サポーターのみなさんには、このプロセスにおいて忍耐強く対応していただいたことを感謝したいと思います。私は既に、攻撃的で楽しいサッカーというわれわれのDNAに立ち返るべきといってきました。ファビオ（・パラディチ）と私は、ヌーノについて、才能溢れる選手たちと若手を引き受けながら、特別なものを築ける人物だと信じています」（トッテナム会長ダニエル・レヴィ）

「ラファは、持ち前の知識と経験に加え、クラブに参加したいという情熱でわれわれに大きな感銘を与えてくれました。ラファを起用するのは、クラブとエヴァートンの人々に成功をもたらすと信じているからです。簡単にいえば、われわれはリーグの上位で戦い、トロフィーを獲得する必要があるということ。ラファはインターナショナルなコーチングにおける豊富な経験を持っており、実績を築き上げてきた勝者でもあります。われわれの野望を達成するために、最高の人物を確保したのです」（エヴァートンの大株主ファルハド・モシリ）

スパーズもトフィーズも、賢明な選択をしたのではないでしょうか。ウルヴスにおけるヌーノ監督の最大の功績は、人材開発です。プレミアリーグに昇格したばかりのクラブでヨーロッパリーグ出場権を獲得できたのは、ルイ・パトリシオ、コナー・コーディ、ウィリー・ボリを軸とした堅実な守備陣を構築しつつ、ディオゴ・ジョッタ、ルベン・ネヴェス、マット・ドハーティー、ペドロ・ネト、アダマ・トラオレらの能力を最大限に引き出したからでしょう。

昨季のスパーズが7位に留まったのは、スカッドの総力を最大限に発揮させられなかったからです。年を経るごとに好き嫌いが激しくなった感があるモウリーニョは、デル・アリ、ハリー・ウィンクス、ヴィニシウスらを活かすことができず、ガレス・ベイルが本領を発揮したのは2月末になってからでした。今やプレミアリーグNo.1のコンビとなったハリー・ケイン＆ソン・フンミンを擁しながら、レスターやウェストハムの後塵を拝したのは、守備力が高い選手ばかりを重用したチームづくりが適切ではなかったからだと思います。

少数精鋭のウルヴスで結果を出したヌーノ監督なら、適材適所を実現しながら、若手を引き上げてくれるのではないでしょうか。欧州主要リーグのビッグクラブを率いたことがないのは懸念材料ですが、補強予算など制約条件が多い現在のスパーズは、むしろ望むところでしょう。ハリー・ケインとデル・アリの引き留めという難しいミッションをクリアできれば、プレミアリーグのTOP4奪還というレヴィ会長の要望に応えられる可能性が高まります。

サポーターの人気者だったアンチェロッティの後を継いだベニテスにとって、前任者がプレミアリーグ10位という微妙な戦績を置き土産にしてくれたことはポジティブな材料です。課題は明確。2シーズン連続で50ゴールに届かなかった攻撃の改善です。カルヴァート＝ルーウィンの強さとリシャルリソンの突破に頼るしかなかった前線に、違いをもたらすタレントを加えれられば、ヨーロッパリーグの出場権争いには加われるはずです。

アンチェロッティが連れてきたハメス・ロドリゲスのモチベーションを高め、伸び悩み気味のトム・デイヴィスやイオビのパフォーマンスを高めるのもベテラン指揮官の仕事となります。2007年2月、リヴァプールを率いていた彼からもらった「スモールクラブ」という言葉を忘れていないエヴァトニアンは、早期に結果を出さなければ騒がしくなるのではないでしょうか。リヴァプールに家族を残したまま、世界を駆けまわっていた61歳の指揮官に課せられた最初のミッションは、誰にも文句をいわせないロケットスタートです。

ヌーノとベニテスの就任を伝える「BBC」の記事のそばに、「クリスタル・パレスはパトリック・ヴィエラを任命する見通し」という見出しがあります。ニューヨーク・シティとニースしか率いたことがないアーセナルのレジェンドは、契約の詳細を詰めるのみとなっているようです。私たちは、有能なマネージャーをもうひとり発見するのか、あるいはロイ・ホジソンの素晴らしさを追認させられるのか。こちらは、続報を待ちましょう。