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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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「ヴェンゲル監督が自ら辞任を目論み、後継者にはアルテタを希望」…現地メディアの記事に思うこと。

Arsenal’s Arsene Wenger could quit as manager THIS summer — and is eyeing Mikel Arteta as hand-picked successor(アーセナルのアーセン・ヴェンゲルは、次の夏に辞任することを想定し、後継者としてミケル・アルテタに目を向けている)」。イギリスメディア「デイリー・ミラー」の見出しが目に入り、そんな話が出るようになったかと思いました。事実かどうか、信じるかどうかはもはや問題ではありませんでした。「彼は幕引きを考えているのではないか」というぼんやりとした想像に、記事が追いついてきたという感覚です。今季プレミアリーグにおけるヴェンゲル監督とアーセナルに、ずっと違和感を抱いていたのです。

誤解を怖れず明快さを優先すれば、こんなもの言いになります。「3-4-2-1の完成を求めていないのではないか、すなわち情熱を失っているのではないか」。プレミアリーグ3節という早いタイミングで完膚なきまでに叩かれたショッキングなレッズ戦以降か、あるいはワトフォードに敗れて首位が見えなくなってからか。いつ頃からだったのか、ヴェンゲル監督のサッカーに楽しさ、自信、プライドといったものが感じられなくなっていたのでした。

2人のエースが、クラブを離れることを考えている…。エミレーツの建設費用の返済に目処が立ち、緊縮財政を解いてからは、こんなに不安な船出は初めてだったのではないでしょうか。ラカゼットとコラシナツ獲得で順調に始まった補強も、最終的には不十分でした。ガブリエウとチェンバレンは泣く泣く放出したのだと思われますが、3バックのキーマンを失いながら代役獲得に動かずという判断は、あまりにも淡白でした。

パニックバイと揶揄されながらも、アルテタ、メルテザッカー、アンドレ・サントス、パク・チュヨン、ベナユンを締め切り間際に次々と獲った2011年のヴェンゲル監督なら、WBの薄さを放置したりはしなかったでしょう。2012-13シーズンはカソルラ、ポドルスキ、ジルー、翌年はエジルとフラミニ、2014年の夏はアレクシス・サンチェス、オスピナ、ドビュッシー。要所にワールドクラスやプレミアリーグ向きの選手を入れてきた指揮官は、チェフしか加えなかった2015年以降は、もう一度新しいスタジアムを建てたかのように「サポーターの不満を和らげるための補強」をしているように見えました。

3バック向きのCBが足りず、ムスタフィ、コシールニー、モンレアル以外のレベルも不安。チェンバレンよりもWBに適応していなかったベジェリン頼みはあまりにもリスキー。アーセナルは、3-4-2-1でプレミアリーグをフルシーズン戦えるチームには見えませんでした。4-2-3-1なら出しどころが常に3つあるエジルは、昨季終盤戦より導入した新システムでは前のコースが1つ減ることになります。これを補うべくWBは4バックのSBよりも上下動のセンスが求められ、ラムジーの負担が大きいフォーメーション。コクラン、エルネニー、ウォルコットは余剰戦力化し、後半のジルー投入というオプションが機能しない試合が増えました。

相手のタイプに応じて4バックと3バックを併用すればいいのにと何度も思いましたが、複数の戦術を使い分けることを得意としない指揮官が、その選択肢に至るまでには時間がかかりました。メートランド=ナイルズを左SBに据えた4バックには、「ムスタフィやモンレアルの負傷でやむなく」という香りが漂っていました。エースのロイヤリティが高くないチームは、迷いながらプレイする時間が長く感じられます。獰猛にゴールを奪いにいくシーンは、エヴァートンやハダースフィールドのように相手が投げたときか、マンチェスター・ユナイテッド、リヴァプール、チェルシーなど上位対決でリードされて尻に火が着いたときに限られました。

ヴェンゲル監督の最大の強みは、選手と強い信頼関係を結び、まかせることができるところだと思います。ところが最近は目に見えて求心力が弱まり、特定の選手への依存度が高い新布陣によってサブの選手のモチベートが難しくなり、緻密なラインコントロールを必要とするフォーメーションには進化の手ごたえを感じられなくなり…。68歳の老将は疲れてしまったのかもしれません。せめてメスト・エジルの契約更新に成功していれば、チームの雰囲気も苛立つことが増えた指揮官の物腰も、そしてプレミアリーグの順位も今とはまったく違っていたのではないでしょうか。

以上は、私の想像です。「デイリー・ミラー」は「ヴェンゲル監督は、契約を短縮してボードルームに加わろうとしている」「アルテタとの非公式の交渉があった」と報じていますが、その真偽のほどは定かではありません。しかし、メディアの記事は、最後に重要な言葉を残しています。「there will be pressure from some members of the Arsenal hierarchy to bring in their own man rather than take Wenger’s advice.(アーセナルのヒエラルキーにいるメンバーからは、ヴェンゲルのアドバイスを取るよりも自分たちで選んだ人材を連れてくるべきとプレッシャーがかかるだろう)」。私が気にしていることのひとつはまさにこれで、サー・アレックス・ファーガソンがデヴィッド・モイーズを連れてきたような後任の人選にしないことが重要だと思っています。アルテタを選ぶとしても、決定の主体はクラブでなければならないでしょう。

そしてもうひとつは、懸念というより祈りです。「最後の春になるなら、『ヴェンゲルout』というプラカードを見ないで済みますように」。プレミアリーグを無敗で制した名将には、その偉業にふさわしい花道が用意されるべきだと思います。たとえ「惜しまれて勇退」といえるような素晴らしい置き土産を残せなかったとしても。

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“「ヴェンゲル監督が自ら辞任を目論み、後継者にはアルテタを希望」…現地メディアの記事に思うこと。” への8件のフィードバック

  1. 麦茶 より:

    大体思っていたことをブログ主さんに書いて頂いた感じです。
    ただ、実際は昨シーズンすでにヴェンゲルがその哲学を捨ててしまったように感じていました。
    ですから契約を延長したことにも驚いきましたし、もしかしたら本人の意思とは別に
    相当な慰留があったからではと考えていました。そして今シーズン、補強も微妙に終わり、
    それでも新しいスタイルを提示してくるのかと思えば、相変わらずの3バックを続けるのを見て
    自分の中ではベンゲルはもう情熱や信念をなくしてしまったと確信してしまいました。

    3バックが悪いというのではなく、そこに何の哲学も感じないのが信じられない。
    これがあのベンゲルのサッカーでしょうか?
    正直今シーズン勝利した試合もただ勝っただけという印象しか残りません。
    単にチームが勝てば良いというだけでなく、ベンゲルの哲学に魅せられて支持してきた人間としては
    最後が(とはまだ決まっていませんが)これかと思うと残念な気持ちでいっぱいです。
    ベンゲルアウトの大合唱も辛かったですが、せめて最後まで信念だけは貫いて欲しかった、今はそんな気持ちです。

    長文大変失礼致しました。

  2. stotina より:

    いつも楽しく拝見しております。

    今回のエントリ、非常に共感しながら拝見しました。
    ヴェンゲル監督ご自身は否定されるでしょうが、「タイトルの重要性を軽視し過ぎてきた」ことが現状を招いているように感じております。
    FAカップをひさびさに戴冠するまでの間に、一度でもPLタイトル獲得、せめて優勝争いをしていれば、違ったのではないでしょうか。
    4位争いをする期間が長すぎたために、クラブも選手も監督もどこかでそこに安住してしまい、優勝争いのしかたそのものを忘れてしまったように思っています。
    本位は別にあったとはいえ、ヴェンゲルさんの口から「CL圏はタイトルに匹敵する」とする発言があったのは残念でした。

    チーム編成的には、2015年にチェフ獲得に終わって以降、補強が後手後手に回っている印象です。
    ヴェンゲルさんの物語はまだ終わっていない、と信じたいのですが、黄昏を感じて「振り返りモード」になっていることも否めません。
    1月に雰囲気を少しでも好転させるような補強・契約更新のような、グッドニュースがあれば良いのですが…。

  3. シャーザー より:

    個人的にはベンゲル云々よりFA優勝後にベンゲルと2年の延長オファーをしたクラブが疑問です
    本当に一つでも上の順位に行こうとしてるのかどうか
    確かにあの時WengerOutが大流行中FAカップ優勝したことにより一部ではベンゲルに掌返ししてるファンもいましたがそれでも結局リーグでCL圏内にも入れずCLではベスト16でいつものようにバイエルンに負けた監督と契約延長したのが本当に理解できませんでした
    ベンゲルの過去の実績は否定されるものではないですが今の現代サッカーの監督に求められる戦術面での指導力修正力はベンゲルに欠けてる(時代に適応できてない)ような気がします
    この記事にも書かれてる通りベンゲルの強みは良くも悪くも選手との結びつきで戦術的柔軟性もなく守備にしても攻撃にしても戦術的な整備がされずに個人頼みの現状を見ると本当に時代に遅れている監督だなと思ってしまいます
    まあ年齢も70近いのでそうなっても何ら不思議はないんですが

  4. だしまる より:

    いよいよこの話題が本格化してきましたか。
    願わくば、リスペクトと伝説を両立させる形で、物語を終えて欲しいものです。

    ブリティッシュコアの失敗で、モチベーションを大きく失ったのかなと思ってしまいます。
    イングランドとアーセナルの未来だったはずの彼らが、ほとんど成長せず。

    エジル&サンチェスがチームに対するモチベーションを失いつつある中で。
    チーム全体に漂うマンネリ感を打破するだけの情熱と新たなプロジェクトを見いだせないのかもしれません。
    どんなに主力選手を引き抜かれても新たなアイデアをひねり出してきたベンゲル監督。

    ここ数年は、引き抜きにあわず、全力でタイトルを取りに行ったはずがかなわず。
    長きにわたる物語の幕は近いにせよ・・・良くも悪くもフィナーレに向けてひと波乱があって欲しいものです。

    まるでルーク・スカイウォーカーのように。

  5. タムコップ より:

    管理人さんのおっしゃってることに大きく首を縦に振りながら読ませてもらいました。
    ヴェンゲルがガナーズおよびプレミアにもたらしたものはとてつもなく大きいのは間違いなく、偉大な指揮官であることは誰も否定しないと思うんですね。
    ここ数年〜特にこの2〜3年〜の迷采配なのか、ピッチに送り込んだ選手頼みになってる感を側から見てて感じてたのですが、これだけの長期政権ともなるとある意味仕方ない気もします。
    「ヴェンゲル流はこうだ」
    という既製概念がはびこり過ぎて、それを揶揄されるがために、本来持ちえないスタイルの3バック中心の布陣を軸に据えたりと、ヴェンゲル自身が退任するまでに何か新しいことをのこしとかないといけないという強迫観念に押されちゃったというか。
    いずれにしても後任探しには骨を折ること間違いないですね…。
    ヴェンゲルのガナーズを見てると、ある程度のサイクルで新しい監督が率いていくという方法論の方が良いのかもしれない、と強く思いました。

  6. ビッグサムファン より:

    あの時、ヴィエラの復帰をさせてれば…と思ってしまうグーナーは私以外にもいるのでないでしょうか。当時の30歳以上は1年契約しかしないという方針は理解できますが、それでも復帰したがってた彼をチームに再び迎い入れ、アーセナルで引退させ、その後ヴェンゲルのアシスタントをさせて後任として育てるというプランはなかったんでしょうか

    これはサーアレックスもそうですが、彼らの愛弟子たちを自分の後継者として育ててくれなかったのは少し寂しく思います

  7. イレブン より:

    本文及びコメントを読んでいると本当に寂しさを禁じ得ません。
    ヴェンゲル監督の心残りは、CLを取れなかったことではないでしょうか。もっと補強していればとか、勝負を賭けていればという思いもあるかもしれません。
    できれば任期中にそのチャンスがあることを切に願います。

  8. makoto より:

    麦茶さん>
    「3バックが悪いというのではなく、そこに何の哲学も感じない」→お気持ち、わかります。コレクティブでなく、一部の選手の負担によって成立しているところがヴェンゲルさんらしくないなと思います。

    stotinaさん>
    ひと頃の「補強できないなかでもよく上位に食い込んでいる」といったムードを引きずってしまった感がありますね。

    シャーザーさん>
    あの凄まじい「ヴェンゲルout」のコールのなかで功労者に引導を渡すのはしのびなかった、という面もあるのではないかと想像します。私は、今季と今後がどうなろうとも昨季でやめなくてよかったと思ってます。

    だしまるさん>
    アレクシス・サンチェスとエジルを手離し、新たな選手を獲って3年がかりで再度強化する…といったことにポジティブに向かえる状況ではないですからね…。

    タムコップさん>
    「ヴェンゲル自身が退任するまでに何か新しいことを残しとかないといけないという強迫観念に押されちゃった」→同感です。ゼロトップ、4-2-3-1、3バックと直近2年は半年サイクルでした。クロップ監督やモウリーニョ監督のように、スタイルとしての一貫性があるなかでシステムをチューニングするというならいいのですが、いじりすぎた感がありますね。

    ビッグサムファンさん>
    その話は泣きそうになる話です。ヴィエラはクラブのスピリッツの語り部として残したかったですね…。

    イレブンさん>
    CL、獲ってほしいです。「ほしかった」という表現は呑み込んで。

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