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偏愛的プレミアリーグ見聞録

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選手との関係構築、プレス対応…あの名物指揮官が語った「モダンフットボールのマネージャー論」

カルロス・カルヴァリャルという人物を覚えてますでしょうか。昨季プレミアリーグで、最下位に沈んでいたスウォンジーのポール・クレメント監督がクリスマスまでもたずに解任となり、後釜としてシェフィールド・ウェンズデーから招聘された指揮官です。52歳のポルトガル人監督にとって、スワンズは指導者キャリアにおける17番めのクラブでした。年末のプレミアリーグデビュー戦から、34節のエヴァートン戦まで5勝5分3敗と健闘。FAカップでも準々決勝進出と、チームを完全に立て直しましたが、最後の5試合でたった1ゴールという不振に陥り5連敗フィニッシュ。スワンズはあえなく降格となり、ミッションを果たせなかった監督はクラブを離れることになりました。

イングランドではさほど注目されていなかったカルヴァリャルは、プレミアリーグで指揮を執り始めて間もなく、記者会見で駆使する秀逸な比喩が話題になりました。攻め込んでいた2月のバーンリー戦で、攻撃的な選手ばかりを継ぎ込んで1-0で勝った際の自らの采配を「肉しか焼かないバーベキュー」。リヴァプールを1-0で完封したゲームでは、ゴール前を固めた自軍を「午後4時のロンドンのトラフィック」と表現し、F1マシンだらけのリヴァプールも一般道ではアクセルを踏めないと解説しました。チャリティの企画として、名言集Tシャツが発売されるほど注目を集めた指揮官は、このたび「BBCラジオ」に出演。現代フットボールにおけるマネージャーの難しさを語っています。

What is it like to be a modern football manager?」という「BBC」の紹介記事のタイトルは、「モダン・フットボール・マネージャーて、どないやねん?」ぐらいに訳すのがいいのでしょうか。「何百万人もの人が憧れる夢の仕事は、名声、幸せ、キャリアが得られる一方で、トップレベルになると思わぬ落とし穴や課題があります」という書き出しで始まる記事は、カルヴァリャルさんがブラガを率いていた2006年に、子どもが学校でいじめに遭い、契約をキャンセルせざるをえなくなったという衝撃的なエピソードを紹介しています。「家族の不幸を見続けていた。子どもが最も泣いてばかりいた時期。辞めなければならないと悟った。ヨーロッパリーグでうまくいっていたので、大きな驚きだった」。サッカーは大好きだが、家族に勝ることはないと語るカルヴァリャルさんにとって、現場を離れる理由は成績不振や他クラブからのオファーばかりではなかったそうです。

選手やオーナーとの軋轢で、クラブを離れたこともあったとのこと。ポルトガル3部のレイショエスを率いていた2002年に、ポルトガルカップ準優勝という成果を残したにも関わらず、次のシーズンに入るとオーナーが現場に介入するようになりました。ある試合に勝った後、カルヴァリャルさんは選手を集めると、用兵に口をはさんできたオーナーにアームバンドを渡してひとこと。「みなさん、今、新しいマネージャーが決まりました。やりたいんでしょう?私は去るよ」。オーナーがひとりでも選手を決めるようならマネージャーはできない、すべてのジャッジはマネージャーによってなされなければならないというポリシーを貫いた瞬間でした。

マネージャーとしての重要なタスクとして、プレス対応があります。プレミアリーグファンを盛り上げた数々のキャッチコピーは、準備しているわけではないというのですが…。「F1マシンをストーリングさせたというメタファーを使ったのは、いい組織なくしてリヴァプールを倒すことなどできないと伝えたかったからだ。こういった試合では、われわれはunderdogs(弱者)だからね。サーディンがロブスターと戦って勝った。彼らの値段はロブスターだよ」って、自然に出ちゃうんですね、比喩全開トーク!

「選手やファンにメッセージを送っているときはマネージャーではない。ドレッシングルームで選手に語りかけることと、プレスを前にして話すのは全く別なことだ」「時に相手を混乱させるのも戦略のひとつだし、ファンとつながって夢を提供することで、選手の背中を押すこともある。ファンは、試合のなかで大きな役割を担っている。多くのポイントを得たときは、いつも多くのファンがいてくれた」。カルヴァリャルコレクションをリリースしたトークの達人は、プレスをうまく利用して、ファンや選手を動かすのも指揮官の重要な仕事のひとつだといっています。

今回のインタビューで最も興味深かったのは、「個々の燃料は違う。誇り、マネー、恐怖…何が彼を動かすのか、パーソナリティを理解しなければいけない」と語った選手との関係構築のお話です。モダンフットボールマネージャーという観点では、「ソーシャルメディアはマネージャーの敵」「選手たちはよりセルフィッシュ(利己的)になり、パーソナルな世界に棲むようになった」といったあたりが近年の大きな変化でしょう。選手の無邪気な発言で盛り上がった若いサポーターが監督を攻撃し始めたり、マスコミが拾ってゴシップに仕立てるなど、SNSがきっかけでチームが難しい状況に追い込まれることもあります。

「スウォンジーにいた頃、ゲームの2日前にパーソナルトレーナーと自宅でトレーニングをしていた選手が膝を負傷したという経験がある。パーソナルトレーナーがいるのは一見いいことだが、マネージャーが毎週やっていることと連携していなかったりする」。現場のトップのマネジメント領域は、ピッチや練習場だけでなく、プレスルーム、インターネット、個々の選手の過ごし方まで急速に広がっています。ペップ、クロップ、モウリーニョ、サッリ、ポチェッティーノ、エメリ…神経を遣うプレミアリーグのビッグ6を仕切るマネージャーの発言に触れるとき、カルヴァリャルさんの言葉を思い出すと、より味わい深いのではないでしょうか。監督の高い年俸には、相応の意味があるとあらためて気づかされる素晴らしいインタビューでした。

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“選手との関係構築、プレス対応…あの名物指揮官が語った「モダンフットボールのマネージャー論」” への1件のコメント

  1. エミリー より:

    誰よ、このオッサン?と思って読むのをスルーしてしまってたのですが、読んだら素晴らしい記事でした。
    プレミアリーグを好んで見ますが、下位チームはほとんどチェックしていませんので、まったく知らない話で、面白かったです。
    それにしても、フットボールアワーの後藤も嫉妬する、ワードセンスですね(笑)
    F-1マシンは笑ってしまいました。

    ネットは、便利さよりも、悪意を多く撒き散らしたという人もいますが、自分のスマホに直接罵詈雑言が飛び込んでくるこの時代に、注目されるリーグで、総合的なマネージメントをするなんて、本当に厳しいでしょうね。

    選手個々の燃料の話も、知られざる名言ですよ。
    私は自営業者ですが、心に置いておくべき言葉になりました。

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