偏愛的プレミアリーグ見聞録

みなさま、ロベルト・ディ・マッテオ氏を憶えていらっしゃいますか。チェルシーサポーターなら、彼のことを忘れることはないでしょう。何せ、チームに初めてのチャンピオンズリーグ制覇をもたらした監督ですから。現役時代はラツィオとチェルシーで活躍し、イタリア代表キャップ34試合を数えるディ・マッテオは、2012年3月、成績不振と古株選手との確執によってチームを追われたアンドレ・ヴィラス・ボアス監督の後を受けて、暫定監督としてチェルシーの指揮を執ることになりました。

当時、42歳だったディ・マッテオは、兄貴分的融和路線で選手のモチベーション向上に努め、プレミアリーグは6位に終わったものの、FAカップとチャンピオンズリーグに優勝。普通に考えたら、これは偉業です。未来を感じさせないディフェンシブなサッカーではありましたが、チャンピオンズリーグの優勝監督など、年にひとりしかいないわけですから。ましてやシーズンで複数タイトルを獲得した監督には、それなりの厚遇があってしかるべきです。

ところが彼は、ビッグネームが大好きなアブラモヴィッチオーナーのおメガネにはかなわなかったのでしょう。2012年6月の監督就任時も、ぐずぐず待たされたうえに、さも「他にいないからキミ！」のような扱いでした。そして、船出からたった3ヵ月の2012年11月、昨季までのチェルシーでは年中行事だった「秋から年末にかけての突然の不振」によってクビになり、ラファエル・ベニテス暫定監督にその座を譲ります。暫定監督3ヵ月、正監督5ヵ月。正監督としてプレミアリーグの試合で手腕をふるった期間はたったの3ヵ月です。当時は、「いくらなんでもひどい」「アブラモヴィッチさんはこれだから…」と、ディ・マッテオの境遇を憐み、冷徹なオーナーへの怒りを増幅し、チェルシーの未来を憂えたものです。今や、そんな心配をする必要はみじんもなくなりましたが。

さて、前置きが長くなりましたが、そんなディ・マッテオさんに先週、久しぶりにスポットが当たりました。ネタ元はイギリス紙「デイリー・メール」です。話の発端は、サウサンプトンに0-2、マンチェスター・ユナイテッドに1-3、リヴァプールに0-4と3連敗を喫し、プレミアリーグからの降格ゾーンである18位に沈んだフラムの監督問題です。イギリスのブックメーカーにおいては、フラムのマルティン・ヨル監督とノーウィッチのクリス・ヒュートン監督が「解任候補2トップ」で賭けの対象にもなっており、フラムは後任候補としてディ・マッテオに興味があるそうなのですが、どうもご本人が乗り気ではないようです。というのも、ディ・マッテオは、2014年の6月までチェルシーから週給13万ポンド（約2000万円）のギャラをもらえるらしいんですね。

何もしないで、週に2000万円ですよ！

こんな話を聞くと「ヘタに再婚なんかしたら慰謝料がもらえなくなる」ということか、とあっさり納得してしまいそうですが、もちろん理由はお金だけではないでしょう。今のフラムの監督を受けるというのは、昨季、ハリー・レドナップがQPRを引き受けたのと同じくらいの貧乏クジ。ダフ、スコット・パーカー、ベルバトフ、リーセ、センデロス、ダレン・ベント、ステケレンブルクと「強豪クラブ所属経験のあるベテラン揃いなのに不振」というのはタチが悪く、意識改革や若手抜擢でチームが変わる可能性が薄いので、立て直しに時間がかかりそうです。ディ・マッテオからすれば、チェルシーで火中の栗を拾ったのにひどい追い出され方をしたので、次はピンチヒッターのような扱いをされたくない、というのもあるかもしれません。しかしまあ、いずれにしても、夏まで週給2000万です。何も焦って現場復帰しなくても…といわれれば、おっしゃるとおりです。

かくして、フラムは引き続き監督のリストアップを続け、ディ・マッテオはワールドカップが終わるまで沈黙を守るということになりそうです。今回は「仕事しなくても週給2000万円」というインパクトがあまりに凄かったので、紹介させていただいた次第。1日300万円あったら、アナタはどうやって過ごしますか？（写真著作者/Brian Minkoff）