偏愛的プレミアリーグ見聞録

「The Best FIFA Football Awards 2023」の男子最優秀選手にノミネートされた12人が発表されたのは、9月14日。トレブルを達成したマンチェスター・シティから6人が選ばれています。ハーランド、デブライネ、フリアン・アルバレス、ギュンドアン、ロドリ、ベルナルド・シウヴァ。ギュンドアンを除く5人は、今季もペップのコンセプトを体現する主軸です。

夏のマーケットにおけるマン・シティは、「今までのスタイルは変えない」と宣言するかのように、手離した選手の後釜獲得に徹しました。ギュンドアンはコヴァチッチ、ラポルテはグヴァルディオル、マフレズはジェレミー・ドク、コール・パルマーはマテウス・ヌネス。勝者は、むやみに動かなくていい。去る者は去れ、代わりはいる。そんな声が聞こえてきそうな王者の振舞いです。

ベテラン3人と生え抜きひとりが抜けた穴は、きっちり埋まりました。デブライネの長期離脱は、ライバルクラブをときめかせるアクシデントですが、フォーデンとフリアン・アルバレスが大暴れしているうちに戻ってきてしまいそうです。ペップの初年度以来となるプレミアリーグ開幕4連勝、ハーランドは4戦6発と通常運転。記者と評論家の大半が、優勝争いの本命に推しています。

今季のマン・シティは、大方の予想通りプレミアリーグ4連覇を達成するのか。ビッグネームを失ったレアル・マドリードやパリ・サンジェルマンを押さえて、欧州連覇を成し遂げるのか。ビッグタイトルを逃すとすれば、どこに死角があるのか…。昨季の足跡を振り返りながら、新たなチャンピオンが誕生する可能性について考えてみたいと思います。

トレブルを達成した2022-23シーズンは、公式戦44勝10分7敗。圧倒的に強いといえる戦績ではありません。プレミアリーグで首位にいたのは42日だけで、248日のアーセナルは「優勝できなかったクラブが首位にいた史上最多日数」というありがたくない記録を更新しています。チャンピオンズリーグはホームで全勝ながら、アウェイでは1勝5分でした。

三冠という偉業を称えつつ、いくつかの幸運があったことも押さえておきましょう。サリバと冨安健洋のリタイアがきっかけとなったライバルの転落、5回戦からセミファイナルまでの3試合が、下部リーグのクラブとの対戦だったFAカップ。負傷した選手たちの欠場試合数62はリーグ最少で、2ヵ月以上のリタイアがゼロだった唯一のチームでした。

ハーランドが不在なら弱体化するかといえば、さにあらず。彼がいなかった公式戦8試合は6勝1分1敗で、唯一の敗戦はプレミアリーグ最終節のブレントフォードとの消化試合です。エースだけでなく、ロドリ、デブライネ、グリーリッシュ、ギュンドアン、ベルナルド・シウヴァ、ジョン・ストーンズも不在だったゲームは、ノーカウントとしてもいいでしょう。

彼らにウィークポイントはないのか…いろいろな角度から調べてみると、2人のキーマンがいないときに勝率が落ちるということが判明しました。ロドリとギュンドアン。スペイン代表のセントラルMFの入団以降、プレミアリーグで欠場した試合と10分以下の出場だった試合を足すと、12勝3分4敗となります。

38試合換算で78ポイント。過去4シーズンで、勝ち点78は3位、2位、3位、3位です。マン・シティの過去4年の平均は87.3ポイント。ロドリの関与度が低くなると、シーズンあたりで9ポイントを失い、首位をキープできなくなるという計算です。ギュンドアンも同様に、4シーズンかつ10分以下のゲームをピックアップすると、25勝8分8敗。勝率60.9%は、ロドリの63.1％を下回ります。

つまり、こういうことです。今までなかったロドリの長期離脱というアクシデントが起これば、カルヴァン・フィリップスやジョン・ストーンズは穴を埋めらないかもしれない。コヴァチッチがギュンドアンの代役になれなかったら、ポイントロストが増えてしまう…。裏を返すと、こうもいえます。「中盤のクオリティが落ちなければ、マン・シティはポール・トゥ・ウィン」。（ロドリゴ・エルナンデス　写真著作者/pantkiewicz）