偏愛的プレミアリーグ見聞録

「プレミアリーグ史上最速となる123試合めで50アシスト！」。ボーンマス戦で達成した新記録を持て囃されたら、ケヴィン・デブライネは首を振って「あれは違う」と否定するのではないでしょうか。15分にアグエロが決めたゴールの前触ったのは、確かにデブライネですが、ジンチェンコからのグラウンダーに反応したプレーメイカーはボレーをミスしてしまっただけでした。このボールが運よくアグエロの足元にこぼれ、左隅へのコースが見えたエースが冷静にプッシュ。「アグエロが、デブライネのアシストをアシストした」と表現したほうがしっくりくるシーンでした。

とはいえ、プレミアリーグ開幕から好調をキープし、4アシストでランキングのTOPに立ったデブライネが素晴らしかったのは確かです。しかしこの試合で最もリスペクトするべきは、その後の2ゴールを演出したもうひとりの司令塔でしょう。今季限りで9シーズン過ごしたクラブを去ると明言しているダヴィド・シルヴァ。マンチェスター・シティで公式戦400試合出場というメモリアルなゲームの後、ペップ・グアルディオラは33歳のベテランMFを手離しで激賞しています。

「信じられないくらい素晴らしいプレイを見せてくれた。この試合のキングだった。相手のディフェンスが深く守り、スペースがないときに真価を発揮する。私がこれまで見てきたなかで、最高の選手のひとりだ」

スターリングに決めさせた43分の追加点こそが、ダヴィド・シルヴァの真骨頂。スターリングがマーカーをかわして上がってきたタイミングと、ビリングとクックの間にできたわずかなスペースの両方を捉えていなければ出せないスルーパスです。勝負を決めた63分のゴールシーンでは、ドリブルで突破してつぶれる役を選びました。キックの精度が高いベルナルド・シウヴァや、パスのタイミングが完璧なデブライネでもなしえないお膳立てがあると思い知らされたショータイムでした。

「BBC」がマッチデーの翌日に配信している「プレミアリーグスタッツ」のコーナーで、ダヴィド・シルヴァの足跡を紹介しているのですが、2010年からの9シーズンでプレミアリーグ85アシストと747のチャンスメイクは、いずれも期間内のTOPとのこと。通算アシスト記録で、ミルナーの83アシストを抜いて7位に進出した水色のプレーメイカーは、スティーブン・ジェラードの92とデニス・ベルカンプの94を抜き去ってプレミアリーグに別れを告げることになるでしょう。

「小さな選手だし、ボックス・トゥ・ボックスではない。外から見ていた私なりのイングランドのイメージがあり、おそらく彼は苦しむだろうと思っていた」。2010年にダヴィド・シルヴァがバレンシアから移籍したとき、ペップは「失敗すると思った」と正直に告白しています。以来9年、プレミアリーグ54ゴール85アシストの小さなスペイン人よりゴール＆アシストが多いMFは、ランパード、ジェラード、ギグス、セスクと350試合以上出場している選手のみ。リーグ戦出場285試合のダヴィド・シルヴァを、史上最高の司令塔とひとりといっても決して大げさではないでしょう。

マンチェスター・シティがビッグクラブに駆け上がるプロセスを、すべて知っているベテランMFは、プレミアリーグ3連覇を花道として颯爽と故郷に帰るのでしょうか。くれぐれも、長期間チームを離れざるをえなくなるケガだけはなさらぬように。ライバルクラブのサポーターとしては、うっとうしい存在でもあったのですが、これだけの名選手のプレイを長きに渡って楽しんでいられるのは幸せなことだとあらためて実感しています。