偏愛的プレミアリーグ見聞録

80分、フレッチャーからの短いパスを受けた香川真司は、左サイド、チチャリートの前に空いたスペースを瞬時に見つけると、すかさず右足で完璧なクロス。DFとGKの間に落ちたボールをダイビングヘッドで叩き込んだチチャリートは、「お前のゴールだ」とばかりに香川真司を指差しながら駆け寄り、ふたりを中心に歓喜の輪が出来上がります。

3-1、ダメ押しとなる貴重な一撃。今大会は完全にテスト仕様で、グダグダなレアル・マドリード相手ではありましたが、いつも欧州でやられているプレミアリーグのクラブがスペインを叩くシーンは、それがプレシーズンマッチでもうれしいものです。香川真司の出場時間はたったの28分でしたが、4戦めにして初めて、「危険なトップ下」であることを内外にアピールしました。ファン・ハール監督の新生マンチェスター・ユナイテッド、インターナショナルチャンピオンシップ決勝進出です。

ペナルティエリアの外でルーク・ショーからのパスを受け、オフサイドラインぎりぎりから飛び出したチチャリートを視野に入れ、体をひねりながら見事に落とした浮き球ラストパス。ピッチ全体を見渡し、数的優位を確認してルーク・ショーに通した絶妙なサイドチェンジ。FKのクリアをワントラップで叩いた左足シュートは、狙い通りうまくアウトにかかっていれば、3点めは香川真司のものでした。最終盤、ザハをGKと勝負させたスルーパスもスリリング。自陣からのロングフィードでカウンターを発動させ、ザハ、チチャリートとつながったボールを見ながらゴール前に走り込んだシーンは、チチャリートにお返しのラストパスを通してほしかった惜しい展開でした。28分という限られた時間で、これだけのチャンスメイクをした香川真司に、スペインの放送局の解説者が「ファンタスティコ、カガワ！」と声を張り上げたのは当然でしょう。

マンチェスター・ユナイテッドは、確実に変わりました。前半21分の先制ゴールは、昨季のプレミアリーグで見せられた深すぎる中盤、とにかくサイドという攻撃からは考えられないパスワーク。ショートパスの交換から前が空いたとみたフレッチャーは、縦パスをルーニーに当てると、ワンツーの返しをもらってゴール前に侵入。中央のウェルベックは、フレッチャーからのパスをもらうと左で1枚余っていたアシュリー・ヤングにラストパス。アシュリー・ヤングは、強烈なシュートでニアを打ち抜き、レアル・マドリード守備陣を完全に崩したきれいな攻撃が実を結びました。ガレス・ベイルのPKで同点に追いつかれた後の2点めは、アシュリー・ヤングのクロスがルーニーの頭をかすめてそのままゴールに飛び込む幸運な一発でしたが、選手間の距離を短く保ち、中央をうまく使いながら攻める形ができてきたことが最大の収穫です。

先日、「新しい選手たちは必要ではないかもしれない」と、補強しない可能性まで匂わせていたファン・ハール監督。そうはいいながら、少なくともCBとセントラルMFは獲るのだと思われますが、この発言は、チームの仕上がりと選手の変化に自信を深めている証拠でしょう。

そんななかで、「マスコミ的な放出候補」香川真司とチチャリートに、あんなプレイを見せられたら、ますます手離したくなくなるのではないでしょうか。ここから先、「獲得選手は2名、放出はフェライニだけ」という、250億円という大規模予算報道は何だったのかというマイナーチェンジに終わる可能性もあります。サポーターとしては、前はいいとしても、層の薄いポジションを一気に強くできるフンメルスとダレイ・ブリントは、多少高くてもお願いしたいと思いますが…。

さて、Bグループは、アレンとスソのゴールでリヴァプールが勝ち、決勝進出となったようです。今季モデルチェンジを図っているチームとしては、プレミアリーグのクラブともう一戦できるのは、非常にありがたいですね。この時期の勝ち負けは参考にならないとはいうものの、リヴァプールのチームづくりが順調なのは間違いないでしょう。何しろ、こちらは再建中の身ですので、昨季のプレミアリーグ準優勝チームに胸を借りるような気持ちで、5日の決勝を楽しませていただきたいと思います。香川真司には、次こそぜひゴールを！