偏愛的プレミアリーグ見聞録

「オールド・トラフォードのヒエラルキーは、スールシャールがクラブに著しい改善をもたらしていると確信しており、今季のヨーロッパリーグに勝つかどうかで、彼の将来が決定されるべきではないと考えている」。マンチェスター・ユナイテッドが指揮官との契約を延長しようとしていると報じたのは、「テレグラフ」で北部の特派員を務めるジェームズ・ダッカー記者です。なぜ、このタイミングでこんな記事が世に出るのでしょうか。

2年前の3月28日、マンチェスター・ユナイテッドは暫定監督だったスールシャールを正式に指揮官に据えると発表。ジョゼ・モウリーニョが去った後、あまりにも鮮やかな解任ブーストを披露したレジェンドは、公式戦19試合14勝2分3敗、プレミアリーグ13試合10勝2分1敗という戦績を残していました。それでも、この決定は時期尚早だったといわざるをえません。4月以降のプレミアリーグは1勝2分4敗、チャンピオンズリーグはバルセロナに2戦連続ノーゴールで連敗。最後の9試合を見届けてから評価していれば、結論は変わったかもしれません。

2017年にモウリーニョ監督がヨーロッパリーグを制してから、マンチェスター・ユナイテッドはトロフィーを手に入れていません。スールシャールの初年度は、CLもFAカップもベスト8で敗退。昨季は3つの大会をすべて準決勝までで終えており、今季はカラバオカップがベスト4、FAカップは準々決勝でレスターに敗れています。残る可能性は、アーセナル、ローマ、アヤックス、ビジャレアルが勝ち残っているヨーロッパリーグのみ。プレミアリーグは2位をキープしていますが、5位ウェストハムとのギャップは8ポイントで、セーフティリードとはいえません。

厳しい戦いが続いている今、指揮官との契約を延長するのは拙速でしょう。記事を見て、最も驚いているのは、3年もたなかった前任者たちかもしれません。スールシャール就任後のプレミアリーグは46勝25分17敗で、勝率52.2%。ジョゼ・モウリーニョは50勝26分17敗で勝率53.8%と上回っており、EFLカップ、ヨーロッパリーグ、コミュニティシールドと3つのトロフィーを持ち帰っています。ファン・ハールは39勝19分18敗の51.3％と振るわなかったものの、2年めにFAカップを制覇。チャンピオンズリーグと国内リーグの優勝経験がある名将たちに対して、「スールシャールのほうがいい」と主張できる根拠はどこにもありません。

ノルウェーの国内リーグとカップ戦しか勝っていない監督について、もうひとつ数字を挙げてみたいと思います。「正式就任からブルーノ・フェルナンデス獲得まで」の戦績は、公式戦20勝11分16敗、プレミアリーグ10勝9分12敗、CLグループステージ敗退。現在12位のクリスタル・パレスが10勝7分12敗なので、「TOP10にも入れないレベルだったチームを、ワールドクラスのアタッカーに救ってもらった」という図式です。

昨季プレミアリーグでトータル44ゴールをゲットしたラシュフォード、マルシアル、グリーンウッドは14ゴールしか決めておらず、エド・ウッドワードCEO、ジョン・マータフFD、ダレン・フレッチャーTDがどこを見て「チームは進化した」とジャッジしているのかがわかりません。スールシャール監督の手柄を言葉にするとしても、「ドレッシングルームの雰囲気は良好」「モウリーニョの下で空回りしていたフレッジとルーク・ショーの力を引き出した」「前任者より圧倒的に安いサラリーで、2シーズン連続のCL出場権獲得間近」というぐらいではないでしょうか。

32年ぶりとなる4シーズン連続無冠を目前としているクラブが、残り契約期間が15ヵ月ある指揮官との契約延長を検討しているというニュースに、モヤモヤ感を拭えずにいます。ブレンダン・ロジャースとトーマス・トゥヘルの素晴らしい采配を目の当たりにしても、これから彼らにかわされたとしても、スールシャール続投ですか!?　たとえ方針は変わらなかったとしても、そのジャッジはシーズン終了後に成果と課題と今後の方向性を明確にしてから下すべきではないかと思うのであります。