偏愛的プレミアリーグ見聞録

先週末、バイエルンがトッテナムに突き付けた「金曜日の深夜までにオファーに回答せよ」という通告は、ダニエル・レヴィ会長がスルー。「テレグラフ」のマット・ロー記者によると、百戦錬磨のビジネスマンは、ドイツのクラブを月曜日まで待たせたうえで、移籍金の総額と支払い条件に難色を示したそうです。

ハリー・ケインは、今週中にバイエルンが合意に至らなければ、この夏の移籍を断念するとのこと。プレミアリーグの新シーズンが始まる前に、白黒つけたいと考えているようです。8600万ポンドが空振りに終わったバイエルンは、自ら設定した期限を超えたにも関わらず、次なるオファーを準備中と報じられています。

土曜日に開催されるライプツィヒとのDFLスーパーカップの前に決着させられなければ、長きにわたってメディアを賑わせたディールは破談となりそうです。スパーズは今も1億ポンド以上といっているようですが、ドイツ王者は条件をクリアするのでしょうか。未だ両者の主張には大きなギャップがあり、短期間で合意まで持っていけるような状況には見えません。

8600万ポンドと聞くと、総額7200万ポンドでホイルンドを獲得したマンチェスター・ユナイテッドは、なぜあれほどあっさり引いたのかという疑問が生じます。プレミアリーグのライバルクラブには売らないといっていたダニエル・レヴィ会長は、1億ポンドを揃えてもイエスとはいわなかったかもしれませんが、それにしても早すぎる撤退でした。

プレミアリーグで213ゴールを積み上げたイングランド代表のキャプテンは、クラブのファーストチョイスではなかったのか。セリエAで9ゴールの若手に7200万を投じるのはギャンブルではないのか。この問いに対して、「テレグラフ」のジェームズ・ダッカー記者が答えを出しています。

3日前に配信されたレポートのタイトルは「Why Man Utd aborted pursuit of Harry Kane and plumped for Rasmus Hojlund instead（マン・ユナイテッドがハリー・ケイン獲得を断念し、ラスムス・ホイルンドを選んだ理由）」。マンチェスター勢の動向を追いかけている記者によると、クラブが早期にNGを出した理由は4つです。

ハリー・ケインは既に30歳になっていた。契約期間が残り1年の選手としては、あまりにも高額だった。トッテナムのダニエル・レヴィ会長との対立を長引せたくなかった。テン・ハフ監督が将来性があるヤングスターの獲得を望み、ホイルンドの可能性にほれ込んだ…。

「テン・ハフは、ホイルンドに関する詳細なスカウティングレポートを頻繁に受け取り、映像を何度も見ていた。直近では、6月にコペンハーゲンで行われたデンマーク代表の北アイルランド戦にスカウトを派遣し、ホイルンドのプレイを見ている」

「さらにユナイテッドの監督は、クラブがケイン獲得を断念した後、20歳のホイルンドを優先ターゲットに決める前に何度もビデオ通話を行った。そのなかで、選手の人柄と野心に心を打たれたといわれている」

「テン・ハフは、ホイルンドがユナイテッドでプレイするプレッシャーに耐えられる性格と気質を持っていると確信した。183センチのストライカーの体格、ペース、エネルギー、ハングリー精神、プレスをかけて背後を突く能力は、プレミアリーグに理想的だと信じている」

2023年の夏は、選手を育成する術を持つ指揮官を得たマンチェスター・ユナイテッドが、長期的な視座をもったチーム作りにシフトした季節なのかもしれません。マグワイアに8000万ポンド、ジェイドン・サンチョに7300万ポンド、カゼミーロに7000万ポンドと実績や評判に投資していたクラブは、コンセプトを具現化する選手やポテンシャルがある選手を引き入れています。

ホイルンドがチームにフィットするのに時間がかかっても、あるいはプレミアリーグになじめずに終わったとしても、クラブの変化と大胆な決断をポジティブに受け止めたいと思います。「契約を延長していないハリー・ケインが来年フリーになったら、チャンスがあるかも…」といった欲望を消し去るまでに、もう少し時間をいただければと思いつつ。