偏愛的プレミアリーグ見聞録

「プレミアリーグのタイトルレースを彩るハイブリッドな役割、8.5番を紹介します（Introducing the 8.5, the hybrid role that is shaping the Premier League title race）」。ヨーロッパとプレミアリーグにおける戦術のトレンドに詳しいフットボールライター、マイケル・コックスさんが、トップチームの前線の変化をレポートしています。

「アスレティック」の記事で語られている「8.5番」をわかりやすくいうと、「ストライカーとインサイドMFをこなすマルチプレーヤー」。9番と8番のミックスです。その昔、スピーディーな攻撃を武器とするチームが増えてきたなかで、いわゆる10番の衰退が話題になったとき、9.5番という言葉が流行りました。4-2-3-1なら、トップ下にゴールゲッターを配する布陣が成立します。

2020-21シーズンのプレミアリーグで37試合18ゴール11アシストという出色のスタッツを残したブルーノ・フェルナンデスは、9.5番というべきか、あるいは最後の10番か。ペップとクロップによって4-3-3が主流となった今は、「10番」は戦術のレポートから激減し、選手のタイプを表現する言葉となりました。

さて、8.5番です。記事が挙げているのは、フリアン・アルバレス、カイ・ハヴェルツ、コーディー・ガクポ。名前を見ただけで、さまざまなツッコミが飛び交いそうです。「フリアン・アルバレスはインサイドではなく、セカンドストライカーというのがふさわしいのでは？」「ガクポは、負傷者が続出した中盤を埋めただけでは？」。それぞれ、ごもっともです。

マイケル・コックスさんは、「8.5番という新しいポジションが出現した」といっているわけではありません。指摘しているのは、ストライカーが従来よりプレスや守備を求められるようになったこと、前線に飛び出してゴールを決められるインサイドMFは強力な武器になりえること。8.5番は、試合の展開次第で戦い方を変えるギアの役割を果たせるといっています。

「カイ・ハヴェルツは、90％は中盤で、10％は前線でプレイしている。9番になるときは、トロサールのように深い位置に下りてくるフローティングFWというより、ターゲットマン」

「ガクポは出場時間の1/3はMF、1/3はサイドで、そして1/3はストライカー。ダルウィン・ヌニェスが左サイドでプレイしているときは、前線の3人の流動性が高まっているが、それはガクポがいかに多才であるかを示している」

「フリアン・アルバレスが4-2-3-1の10番としてプレイしていたのは、ケヴィン・デブライネが負傷離脱していたときだけだった。それ以外では、彼は最前線と中盤センターの役割が半々となっていた」

ゴールがほしい最終盤にポジションを上げるカイ・ハヴェルツ。逆転をめざす後半に、4枚めのアタッカ―として参戦することもあるガクポ。ロドリの脇からハーランドの隣まで、状況によってポジションを上下させるフリアン・アルバレス。試合によってポジションを変え、ゲームのなかで役割を変えることもある彼らの存在自体が、強者の戦術のバリエーションとなっています。

今回の記事を読んで、ハリー・ケインのプレイが脳裏に蘇ってきました。ここ数年、後方に下がって左右にボールを散らすようになっていたスパーズの10番は、インサイドでも素晴らしい選手になれるのだろうと思っていたのです。そういえば、ハーランドが来る直前のマン・シティは偽9番で、デブライネ、ベルナルド・シウヴァ、フォーデンは全員8.5番でした。

クロップの前線の5人は、左右中央すべてOK。ペップのチームは、ハーランドとロドリという絶対的なスペシャリスト以外は、さまざまなポジションで機能する選手ばかりです。わがマンチェスター・ユナイテッドに8.5番は…もしかしてマクトミネイ？彼をこの話に巻き込むかどうかは、もうしばらく考えたいと思います。

以上、現地のレポートと私の雑感をまとめると、前線と中盤に流動性をもたらすマルチタスクのタレントが、優勝候補のチームの戦術的選択肢を増やしているというお話でした。応援しているクラブ以外の試合も見る機会があるという方には、今後のプレミアリーグの愉しみ方が広がったと思っていただければ幸いです。