偏愛的プレミアリーグ見聞録

クラブ創設は1878年。10年後に始まった世界最古のサッカーリーグに参加した12クラブのひとつ。1892年まで、アンフィールドのオーナー。1954-55シーズン以降、66年連続でトップリーグに所属。プレミアリーグ創設以来の低迷期も、15位以下が7回もありながら、何とか降格を回避してきました。2002年から11年続いたモイーズ時代は、チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグの出場権を争うクラブでした。

古豪という表現は、彼らこそがふさわしい。エヴァートンは、プレミアリーグになくてはならない顔のひとつです。しかし今、彼らは苦しんでいます。直近のリーグ戦13試合を1勝2分10敗と極度の不振に陥り、暫定16位という危険なポジションに転落。18位ニューカッスル、17位リーズと続く「直接対決」に連敗すれば、いよいよ降格ゾーンに突入してしまいそうです。

2016年2月、アーセナルの株式を売却したファルハド・モシリが筆頭株主になったエヴァートンは、1980年代の黄金時代を取り戻すべく強化をスタート。当時の「リヴァプールエコー」に個人資産13億ポンドと報じられたモシリ氏は、オフシーズンにロベルト・マルティネスとの契約を解除し、セインツを率いていたロナルド・クーマンを招聘しました。

2016-17シーズンは、オランダ人監督の下でプレミアリーグ7位フィニッシュ。イランの富豪の青写真通りに事が進んだのは、ここまででした。その後の4シーズンは8位、8位、12位、10位で、現在は16位。2024-25シーズンに、52888人を収容するブラムリー・ムーア・ドックに移転するクラブは、こけら落としをチャンピオンシップで迎えることになるかもしれません。

彼らの強化が不調なのは、なぜでしょうか。最初の失敗は、ロメウ・ルカクの売却資金で敢行した2017-18シーズンの大型補強でした。ディヴィ・クラーセン、アンリ・オニェクル、ジョーダン・ピックフォード、マイケル・キーン、ウェイン・ルーニー、クコ・マルティナ、ニコラ・ヴラシッチ、ジェンク・トスン、テオ・ウォルコット。現在も主軸として活躍しているのは、ピックフォードとマイケル・キーンのみです。

第2の失敗は、大量補強の直後にロナルド・クーマンを慌てて解任したことです。プレミアリーグ開幕から2勝2分5敗は、いただけない戦績ではありますが、敗戦のうち4つはチェルシー、トッテナム、マンチェスター・ユナイテッド、アーセナルでした。大量の新戦力をフィットさせるのに時間が必要だった指揮官を信じていれば、その後の歴史は変わったのではないかと思われます。

クーマンが去った後、マルコ・シウヴァも就任2年めに不振に陥り、2019年12月に解任。中盤の守備を強化すべく獲得したグバミンの長期離脱が最大の誤算でした。1年半の周期で監督が変わるため、腰を据えた若手育成ができず、戦術によって必要な人材がコロコロ変わるチームになってしまいました。

2017年のU-20ワールドカップで優勝したイングランド代表は、エヴァートンの選手が中心となっていました。ジョンジョ・ケニー、キーラン・ドゥーウェル、アデモラ・ルックマン、カラム・コノリー…レギュラーに定着したのは、カルヴァート＝ルーウィンのみ。トム・デイヴィスやホルゲートも伸び悩み、ユーヴェから来たモイーズ・キーンは空回り。U-20が魅力的だったチームの中盤と最終ラインは、「R-28」になってしまいました。

コールマン、アラン、デルフ、タウンゼントは30代で、マイケル・キーン、ドゥクレ、アンドレ・ゴメスもアラサーに突入。レギュラーといえる若手は、最近になって頭角を現してきた20歳のアントニーゴードンと、24歳のゴドフリーだけです。エヴァートンの次期監督にふさわしいのは、若手を育てながら勝てるタイプでしょう。

長期的な視座があれば、デウロフェウ、ルックマン、ハメス・ロドリゲス、ディーニュは、引き留めることができたのではないでしょうか。どうなる、どうするエヴァートン。今季を何とか切り抜けたとしても、夏になればリシャルリソンやカルヴァート＝ルーウィンを失う可能性があります。必要なのは、コンセプチュアルなチームづくりができる人材でしょう。お隣のクラブが連れてきたユルゲン・クロップのような。