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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

片や逆転に成功、もう一方は空振り…2人のポルトガル人監督が仕掛けたギャンブルに興奮!

アーセナルとチェルシーが中堅クラブに敗れ、マンチェスター・ユナイテッドはリヴァプールに押されながらもドロー決着。マンチェスター・シティはストークに7発大勝、トッテナムは攻めあぐみながらもボーンマスに1-0辛勝。プレミアリーグ8節が開催された土曜日は、番狂わせが連発したエキサイティングな1日でした。そんななかで、最もおもしろかったのは、2人のポルトガル人監督が仕掛けたギャンブルでした。ワトフォードのマルコ・シウヴァとマンチェスター・ユナイテッドのジョゼ・モウリーニョ。アーセナルを逆転で下した前者は成功し、リヴァプールに終始押された後者は空振りに終わりましたが、それぞれの戦術は迫力がありました。まずは、素晴らしい勝利でプレミアリーグ4位に躍進した40歳の若き指揮官のほうから、戦いぶりを振り返ってみましょう。

「前半は、恥ずかしい戦い方だった」。GKのエウレリオ・ゴメスはボスにそういわれたと述懐し、指揮官自身もそれを認めています。メルテザッカーにCKをヘディングで叩き込まれ、0-1で折り返した後半。木曜日の試合前会見で、「戦略は、試合のなかでときどき変えることができる。スウォンジー戦では、われわれは4-3-3でプレイし、その後は5バックにした」と語ったマルコ・シルヴァ監督は、劣勢の試合を勝ちにいくべく63分にギャンブルに出ました。アンドレ・グレイとマリアッパを下げ、トロイ・ディーニーとカリージョを投入。5-4-1だったフォーメーションは、4-5-1に形を変えます。

「われわれは、後半に少々のリスクをとってプレイした。対戦相手はこれによってチャンスが増えたが、それこそがわれわれがやりたいことだった」。マルコ・シルヴァ監督が振り返った「相手のチャンス」は、交代直後にイオビとエジルがGKゴメスと1対1になったシーンのことでしょう。守護神はイオビのシュートを左手の先で外に弾き、エジルの正直な一撃は体に当ててストップしました。DFの枚数が変わった直後の混乱を、ゴメスの気迫で乗り切ったワトフォードはここから勝ちにいきます。71分にベジェリンがリシャルリソンを倒したとジャッジされ、ディーニーが落ち着いてPKを決めると、アーセナルのMFたちはそれまでと景色が変わったことを思い知らされます。

トロイ・ディーニーは、以前はイガロの後ろで働いていたセカンドストライカータイプ。前任のアンドレ・グレイよりも低い位置でボールに絡むFWと、CBのマリアッパに代わって入ったカリージョがいることで、4対4だった中盤を6対4にされたアーセナルの選手たちは混乱をきたしました。ジャカとエルネニーはカバーすべきエリアが曖昧になり、厚みのある中盤にエジルやジルーへのパスコースは分断されます。ヴェンゲル監督は、勝ちにいくならイオビをウィルシャーに代えて中盤に加勢させ、ドローでやむなしとするならコクランをCBの前に入れて落ち着かせるなど、何らかの手を打つべきでした。押せる、勝ち点3を狙えると踏んだマルコ・シルヴァ監督は、ラスト10分にロベルト・ペレイラを下げて正確なパスとミドルシュートが武器のカプェを投入しました。

ディーニーの偽トップのような布陣がはまり、脅威のリシャルリソンが何度もトップを追い越してゴールに迫り、カプェは得意のミドルでアーセナルの守備陣を焦らせます。アウェイチームがまったく攻められなくなったと見てとると、サイドのホレバスまでポジションを高く取るようになりました。最後はホレバスのミドルからディーニーがこぼれ球をプッシュし、リバウンドを狙ったリシャルシソンのシュートがメルテザッカーにヒットしてこぼれたところをクレヴァリーがゲット。「ヴェンゲルはPK(の不当なジャッジ)が敗因だといっていると聞いたけど、そうじゃないんじゃないか。負けたのは、肝っ玉の問題だろう」というディーニーの言葉からは、ハーフタイムから消極的になるなと煽り続けた指揮官への信頼を感じます。ワトフォードの指揮官が仕掛けた戦術変更に、アーセナルのベテラン監督が対応できなかったのが、2-1という結果に反映された一戦だったのではないかと思います。

 ノースウェストダービーがドローに終わった後、マンチェスター・シティ、アーセナル、チェルシーを見ようとテレビにかじりついていた私に、モウリーニョ監督の試合後会見が興味深かったと教えてくれたのは、いつもコメントをいただいているvooさんでした。0-0で終わったリヴァプール戦について、多くの方が「プレミアリーグ2位チームがあまりにも守備的だった」という印象を持ったのではないでしょうか。現地のプレスも同様で、会見ではドロー狙いだったのかとポルトガル人監督に質問が飛びました。これに対してモウリーニョ監督は即座に否定し、「クロップ監督が勝利を狙って攻撃的になるのを待っていた」と語りました。

「3ポイントを取りにいったが、試合展開から難しいと感じた。リンガードとラッシュフォードを入れて相手が攻撃的なカードを切るのを待っていたが、ユルゲンは中盤3枚をキープし、私のチームよりも強度があった」
「カウンターを仕掛けるスペースをもらえなかった。われわれが守備的で、向こうが攻撃的だったといいたいのかもしれないが、それは違う。私は待っていたんだ。ユルゲンはうまくやったと思う。試合を壊すことを許してくれなかった。彼はエムレ・ジャン、ワイナルドゥム、ヘンダーソンでハイプレスを仕掛け、よくカバーしていた」

モウリーニョ監督は、ラシュフォードとリンガードに相手は後半から変わると事前に話し、策を伝えていたとのこと。これを聞いて、私は以前に本ブログで紹介した「フットボール365」の副編集長ダニエル・ストーリーさんのレポートを思い出しました。

See the vast space in central midfield afforded to Jonjo Shelvey on the counter attack for Newcastle’s goal on Sunday.(日曜日のニューカッスル戦では、ジョンジョ・シェルヴィにカウンターアタックを許す中盤の広大なスペースを目撃した)」

モウリーニョ監督が待っていたのは1点、「エムレ・ジャンをスタリッジ」でしょう!インサイドMFにシフトしたコウチーニョが前に上がる4-2-4に近い布陣になったら、リンガードは10番の裏のスペースに入り、ラシュフォードには中に絞ってルカクをサポートするように指示していたのではないでしょうか。クロップ監督の慧眼により、「相手の交代に対応するのではなく、先に動いて待つ」というギャンブルは空振りに終わりましたが、はまっていれば鮮やかだったことでしょう。いやー、おもしろい。成功・失敗はともかく、2人のポルトガル人の胆力とインテリジェンスに拍手を送りたいと思います。スピードと激しい競り合いが看板だったプレミアリーグも、ここ数年で戦術的な魅力がぐっと高まりました。今週末、ワトフォードはスタンフォード・ブリッジでチェルシーと当たります。今季プレミアリーグのアウェイ戦で3勝1分と無敗のチームが、どんな戦い方をするのか非常に楽しみです。

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“片や逆転に成功、もう一方は空振り…2人のポルトガル人監督が仕掛けたギャンブルに興奮!” への5件のフィードバック

  1. Macki より:

    更新ご苦労様です。
    ファンやサポーターからすると、もどかしいゲーム展開でしたが、現場を預かりタクトを振る側としては緻密な戦略があることを、改めて感じた一戦でもありその後のコメントです。
    奥が深く更にゲームを観る視点が増えて面白いです。

  2. グッチ より:

    勢い一番とはもう言わせないリーグですね、名だたる名将も新進気鋭の若手監督も。時計の針が恐ろしく進んでいるように感じますが、だからこそベテラン勢(監督も選手も)に粘って欲しいです。かつてプレミアにアスリートとは、プロサッカー選手とは何かを持ち込んだ一人であるヴェンゲル監督にどこか肩入れしてしまう他ファンです。

  3. サンドバック より:

    モウリーニョと言うと、「俺がファルカオを復活させてやるぜ!」とか意気込んで、特大に色々としくじって、ジエゴ・コスタごときにビブショーツを投げつけられたのに何のペナルティーも与えなかった。その対応に過去の神通力を一気に失ってしまった可哀想なオッサンと言う感覚を、どうしても抱いてしまいます。

    すでにモウリーニョは名監督として存在する為の大事な何かを無くしている!

    そんな感じの、ちょっと極右的っぽい色眼鏡も内ポッケ辺りに持っている方が、今のユナイテッドを見る上では必要なんじゃないかなー、とか思いますよ。

  4. プレミアリーグ大好き! より:

    上のコメントについてそもそもファルカオを獲ってきたのはモウリーニョではなくチェルシーのフロントですし、ペナルティーを出す権限を持つのは監督ではなくクラブです。

    あなたがどう思っていようがどうでもいいですが無闇に他のファンを刺激するような根拠もない程度の低いコメントは控えられたほうがいいと思いますけどね。

  5. makoto より:

    モウリーニョは強豪相手には試合の最初から最後まで失点するリスクを限りなく抑えた受動的な戦術が基本ですから守備的と言われても仕方ないかな
    試合の序盤はそれで良いと思いますが相手のミスを待つのではなくミスを誘うようなリスクを犯す時間帯がもう少しあっても良いのかなと思います

    —–
    ジャンをスタリッジか、確かに。狙いはそこだったんでしょうね。

    耐えつつ一撃で肺腑を突く瞬間を狙っていたモウリーニョと、点を取ることを最優先とは言いがたい交代でそれをすかしてみせたクロップの采配の妙はやはり面白かったです。

    —–
    Mackiさん>
    そうですね。「速攻でコウチーニョの裏狙い」なら、マタではなくリンガードなのもわかります。

    グッチさん>
    その感覚は私にもあります。かつてのフロンティア、アーセン・ヴェンゲルがもうひと花咲かせるところを見たいな、と。

    サンドバックさん>
    私は、狂信的にモウリーニョさんに肩入れしているわけではありませんが、サンドバックさんの認識は事実ベースではなく、わざわざ悪く捉えているように感じます。ラニエリ監督やハインケス監督のように、キャリアの終盤になってから素晴らしい成果を残す方を見た者として、最も避けたいのは乱暴なレッテルを貼ることかなと思ってます。

    プレミアリーグ大好き!さん>
    今季のモウリーニョ監督は、昨季にもまして期待できるのではないかと思います。EL、EFLを勝った翌年にジャンプアップするとなれば、ビッグタイトル2つのどちらかを獲っていただくしかありませんが。

    シティふぁんさん>
    守備的であることは間違いありません。私も、もう少しリスクをとってもいいのではないかと思うことが多いです。

    vooさん>
    同感です。ありがとうございました。

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