偏愛的プレミアリーグ見聞録

レアル・マドリードが、公式サイトでエデン・アザールの移籍を発表しました。リールで2シーズン連続のリーグアンMVPに輝いたドリブラーは、2012年6月4日、香川真司より1日早くプレミアリーグに参入。マンチェスター・ユナイテッドに加わった日本人アタッカーは、ファーガソン勇退後の混乱に巻き込まれて本領を発揮できずに終わりましたが、ベルギー代表のエースはプレミアリーグとヨーロッパリーグを2回ずつ制覇しました。FAカップとリーグカップでも頂点に立ち、チャンピオンズリーグ以外のすべてのタイトルをものにした10番は、フェルナンド・トーレスと並ぶプレミアリーグ85ゴールという数字を残し、最後のシーズンは15アシストでリーグの頂点に立っています。

「ワールドクラスのテクニック、ヴィジョン、ドリブル、ペース、フィニッシング」など、これ以上ないほどのベタほめに終始しているスペインの名門は、チェルシーにいくら払ったのでしょうか。「BBC」「ガーディアン」などの英国メディアは、前日までの記事で「8900万ポンド（約123億円）で合意」と報じておりましたが、移籍決定によって新たな情報が手元に届いたのか、見出しの数字は一変。ベースとなる89Mに加えて、オプションだけで6000万ポンドを超える条件が設定されているようで、「BBC」の初報は「1億5000万ポンド（約207億円）でサイン」に膨れ上がっています。フランクフルトのセルビア代表FWヨヴィッチ獲得に6200万ポンド（約86億円）を費やしたクラブは、クリスティアーノ・ロナウドとカリム・ベンゼマの後継者に300億円を投じたことになります。

ガレス・ベイルのような大物を獲れる資金を懐に収めたチェルシーは、補強禁止処分を緩和できるかどうかが不透明で、厳しい夏を過ごすことになるかもしれません。契約が残っている以上、アザールをプロテクトするという選択肢もあったわけですが、ディレクターのマリナ・グラノフスカイアさんは、功労者の意志を尊重したようです。ブルーズの公式サイトは、「クラブ歴代23位の352試合出場、9位の110ゴール」という足跡を紹介しつつ、グラノフスカイアさんからのメッセージを掲載しています。

「もちろんクラブに残ってほしいと思っていた。そんななかでの別れはつらいけれど、子どもの頃から憧れていたレアル・マドリード入団という夢を実現する決断を尊重したい。ここでの功績が忘れられることはない。観る者すべてを魅了し、勝負を分ける幾多のシーンに関わってくれた。エデンへの感謝は計り知れない。常にプロのお手本であり、周囲を楽しい気分にさせてくれた。スタンフォード・ブリッジは、将来にわたって彼が戻ってくるのを待っている」

「BBC」は、移籍決定の報に際してプレミアリーグで7シーズンを過ごしたアザールのスタッツをまとめ、同じ外国人のライバルたちと比べていかに素晴らしかったかをレポートしています。チャンスクリエイト595回は、同時期のダヴィド・シルヴァやエリクセンより上。54アシストはこの2人だけでなく、エジルやマタよりも上。とりわけ圧倒的なのはドリブルで、1441回仕掛けたうち909回成功という数字はぶっちぎりのNo.1。受けたファールは、2位のザハを188回も引き離す638回に達しています。ティエリ・アンリより多くのトロフィーを獲得し、クリスティアーノ・ロナウドとカルロス・テベスを1ゴールだけ上回った稀代のドリブラーは、プレミアリーグとチェルシーの歴史とサポーターの記憶に永遠に残り続けるでしょう。

ありがとう、エデン・アザール。あなたは真のプロフェッショナルでした。スペインから、素晴らしいドリブルでライバルたちを翻弄したというニュースがいくつも届くことを祈っています。青いシャツでピッチに立つ最後の試合となったバクーでの大爆発を、いつまでも頭の隅に置いておこうと心に決めています。