偏愛的プレミアリーグ見聞録

「Daniel Levy will sanction world record £200million Harry Kane move to Manchester United to ease financial worries as club continues to pay for £1billion stadium（ダニエル・レヴィは、スタジアムの建設費10億ポンドを払い続けており、財政的な懸念を緩和させるためにハリー・ケインがワールドレコードの2億ポンドでマンチェスター・ユナイテッドに移籍することを認めている）」。イギリスメディア「デイリー・メール」のたどたどしい見出しは衝撃的ですが、ジェイドン・サンチョがファーストチョイスといわれているマンチェスター・ユナイテッドは手を出さないのではないでしょうか。

プレミアリーグ通算201試合136ゴール、6シーズン連続2ケタゴールで得点王2回とイングランド代表キャプテンの実績は申し分ないのですが、このご時世に2億ポンド（約270億円）のディールは成立しないでしょう。とはいえ、火のないところに煙は立たず。そもそもなぜ、こんなゴシップが流れたのか、メディアの言い分をチェックしてみましょう。

ジョー・バーンスタイン記者が主張する「スパーズがエースを売却する理由」は3つです。スパーズにはスタジアム建設のために借りたローンが6億3700万、トランスファーフィーとして8300万ポンドの負債が残っており、これらを圧縮する必要が生じていること。コロナウイルス拡散防止のためのロックダウンが解除される見通しが立たず、プレミアリーグ2019-20シーズンがノーカウントになれば、クラブの経営が危機的状況に陥る懸念があること。3つめが最も気になるのですが、「ダニエル・レヴィ会長がハリー・ケインの発言に激怒」と記されています。

レヴィ会長の逆鱗に触れたといわれているのは、3月末に「スカイスポーツ」が報じたジェイミー・レドナップさんとのインスタグラムLiveのやりとりです。既に中断されていたプレミアリーグ2019-20シーズンの決着について、「リーグが可能な限りの手を尽くしているのはわかっているが、6月末がリミットだと思う」と語ったストライカーは、「シーズンを後ろ倒しにするメリットはない。舞台裏や財政的な状況に通じているわけではないけれど、何らかのオプションを検討して、次のシーズンを始めるべきだ」と主張しています。

「2019-20シーズンを無効とすべき」と、はっきりいったわけではないのですが、経営が苦しいクラブに対する配慮を欠いているとされたのでしょうか。自らの将来についても、会長目線では容認しづらいコメントを残しています。「われわれはファンタスティックなチームだけど、タイトルを獲得できていない。これはつらいね。チームとしての成長を感じられなければ、忠誠のためだけでクラブに残ることはない」。戦いが続いているシーズンの終わりが見えていないなかで、移籍をほのめかすような発言をしたキャプテンに堪忍袋の緒が切れたという話なら、充分理解できます。

商売人のレヴィ会長が、投げ売りのような形でエースを手離すとは思えませんが、2億ポンドというタグは何度も貼り替えを強いられるのではないでしょうか。コウチーニョの売却に苦心しているバルセロナも、サディオ・マネを狙っているといわれるレアル・マドリードも、複数のポジションを強化したいマンチェスター・ユナイテッドも、先行きが見えないなかでワールドレコードの移籍金を払う余裕はないでしょう。

ブンデスリーガで23試合14ゴールのジェイドン・サンチョの移籍金は、1億ポンドといわれています。プレミアリーグのレコードは、ポール・ポグバの8900万ポンド。ポグバ以上サンチョ未満でOKなら、本命を獲り逃がしたクラブから声がかかる可能性があるというぐらいでしょう。「デイリー・メール」のゴシップを「メトロ」がフォローという怪しいゴシップに、うっかり反応してしまいました。レヴィ会長が、エースの発言に眉を顰めているという話までは、事実かもしれませんが。