偏愛的プレミアリーグ見聞録

試合開始から、完全にチリのペース。それでも15分の、ジエゴ・コスタのシュートからシャビ・アロンソがゴールに迫ったシーンで、シュートが決まっていれば違う展開もあったかもしれません。最初の決定機を逃したスペインは、再びチリにペースを奪われます。20分、チリのカウンター。DFの頭数は揃っていたものの、複数で囲んだアレクシス・サンチェスを止められずに縦にスルーパスを通され、受けたアランギスが中に優しいグラウンダーを通すと、アレクシス・サンチェス同様、決定力のあるバルガスがカシージャスの飛び出しをかわして右足でプッシュ。ここまでの流れを考えれば、チリの先制に、何の不思議もありませんでした。

スペインは、初戦のオランダ戦同様、コンディションが悪そうです。中盤でプレスをかけられ、無理なパスを通そうとしてチリのインターセプトの餌食になるシーンが多く、何度も自陣に逆戻りさせられ、そのたびに体力を消耗させられます。オランダ戦から、シャビをペドロに、ピケをハビ・マルティネスにスイッチするという荒療治も、効果があるようにはみえませんでした。対するチリは、オーストラリア戦の快勝とバルガスの先制点、気持ちよくはまるプレスに、自信とテンションを高めています。43分、この試合の2点めも、やはりチリ。アレクシス・サンチェスの右隅へのFKを、カシージャスがアランギスの正面にパンチしてしまい、冷静にトラップした背番号20がゴール右に狙いすましたシュートを放つと、今度はカシージャスはまったく触れませんでした。横に弾いてさえいえば、何も起こらなかったはずの失点で、スペインは窮地に追い込まれます。

シャビ・アロンソをコケに代えた後半、イニエスタのスルーパス、セルヒオ・ラモスのFKのこぼれを狙ったブスケッツのシュートと、いくつかチャンスを創るものの、いずれもゴールの枠にシュートを飛ばすことができません。このチームには、2008年ユーロのF.トーレスや、2010年ワールドカップのビジャのような決定力のあるFWがいないのです。ジエゴ・コスタが絶好調であれば、何かを変えられたのかもしれませんが、シーズンの疲労と直近のケガで満身創痍のCFは、チリDF陣を慌てさせることすらできませんでした。

64分にジエゴ・コスタに代わって入ったF.トーレスは、プレミアリーグに来た頃の爆発的なスピードを完全に失い、DFに簡単に囲まれます。ペドロに代わって入ったカソルラは、何とか同点に持ち込もうと積極的にミドルを放ちますが、GKブラボを破るには至らず。ダヴィド・シルヴァは、プレミアリーグでの司令塔ぶりが嘘のように、窮屈にプレイしています。今までにないほど、守備に戻らされて上下動を繰り返したスペインの中盤に、ラスト15分を走りきるガソリンは残っていませんでした。2-0、チリの完勝。2試合で、得点はシャビ・アロンソのPKのみ。失点は、GKカシージャスのミスからの3点を含む7。スペインは、1966年ブラジル、2002年フランス、2010年イタリアに続いて、4チームめの「グループリーグで敗退した前回王者」となってしまいました。

私の「スペイングループリーグ敗退予想」は、記事中で指摘したよりも厳しい形で的中しました。彼らの敗因は、コンディション不良と、ビハインドを背負った時のオプションの少なさ、そして決定力不足。デル・ボスケ監督の過ちは、チームの賞味期限を見誤ったことと、競争原理が働かない絶対的レギュラーで戦うチームを創ってしまったために、臨機応変にメンバーを入れ替えて効果を出せなくなっていたことでしょう。シャビとイニエスタを中心としたスペイン代表は、昨年のコンフェデレーションズカップが賞味期限。今回勝つためには、いくつかの改革が必要だったのだと思います。ダヴィド・シルヴァやコケ、カソルラ、カルバハルらをもっと活用できるチームにしていたら…と思うと、この1年の過ごし方が悔やまれます。

スペインは、負けました。しかし、彼らが世界でトップクラスであることは、来季のプレミアリーグやリーガ・エスパニョーラで選手たちが証明するでしょう。スペインが弱体化したわけではなく、強い選手がいたのに強いチームを創れなかったのです。前回のイタリアに続き、今回もまた、サッカーの怖さを思い知らされました。まさか王者が、7点も獲られるとは…。