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偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

世界も国内も賛否両論…ラスト10分を他力に委ねた西野采配をあらためて振り返る。

世界も国内も、賛否両論です。ワールドカップロシア大会グループH、日本VSポーランド。グループ首位だった日本は、主力6人を温存する新布陣を選択し、失点回避の戦い方に終始しますが、57分のセットプレーを決められ、この瞬間3位に転落。その後、コロンビアがセネガルからゴールを奪い、日本はフェアプレーポイント(レッドカード、イエローカードの枚数)の差で2位に浮上しました。自らが2点めを奪われればアウト。セネガルが同点ゴールをゲットしてもアウト。イエローカードをもらっていた槙野が、もう1枚いただいてしまえば、やはりアウトです。西野監督の作戦は、現状維持でした。ラスト10分からひたすら自陣でパスをまわし始めると、1-0も2-0も変わらないポーランドと商談成立。0-1のまま試合を終え、セネガルが追いつけなかったことを確認すると、選手と指揮官に安堵の表情が浮かびました。

「結果がすべて」「あの場面では、最も確率が高い方法を選んだ」「西野監督の毅然とした判断と徹底度が素晴らしい」と決勝トーナメント進出を称賛する声に対して、「恥ずべき対応」「最後まで勝利を狙わない戦い方は、フェアではない」「自らの行く末を他力に委ねるとは…」といった非難も数多く挙がりました。狡猾なプレイを好まないプレミアリーグのお膝元においても、「BBC」も「ザ・サン」も両論を紹介。スペインの「マルカ」も「胸を張っていい」「恥ずべきだ」とそれぞれの見解を掲載しています。ナガトモ大好きで、結果主義のイタリアでも「ニシノは奇跡の男」「ルール内、問題なし」「スキャンダラス」「反スポーツマンシップ」などと、記者の反応は割れています。

明快に二手にわかれましたが、ニッポンのサッカーファンなら、以下の2点については握手できるでしょう。「コロンビアとセネガル相手に、素晴らしいサッカーを展開していた日本が快勝するシーンが観たかった」「つまらない試合だった」。さらにもうひとつ、「自力で突破できる状況なら、理解できる」という方も多いのではないでしょうか。さまざまな意見をチェックしつつ、あらためて自分が試合前日からタイムアップまでに書いてきたことを振り返ってみました。

「日本と戦うポーランドは、連敗で敗退が決まったアウトサイダーではなく、FIFAランキング8位の強国として警戒するべきだと思います。コロンビア戦の80分に、守備の要のカミル・グリクが復帰しているのが要注意ポイント。彼が戻ったポーランドは、守備が堅牢な素晴らしいチームです」
「ベスト8、ベスト4を狙う国が、小国を相手に戦うようなスタメン」
「多分にギャンブルだった最後の戦い方を、称賛も批判もできません。はっきりいえるのは、西野朗という勝負師が丁半博打に勝ったということと、選手たちがコンセプチュアルな戦術を全うしたということです」

私が西野監督をリスペクトしたいのは、是非はともかく「ワールドカップの日本代表で初めて、決勝トーナメントまで勝とうとしたこと」「戦術・ジャッジが明快だったこと」です。ただし、こうも思います。主力6人をベンチに置いたのは、結果的には失敗だった、と。ゴールを奪えず、急造の最終ラインもノーゴールに抑えられず、一時は3位でした。岡崎のアクシデントがあったとはいえ、乾を投入してもゴールへの期待値が上がらないなかで、切り札1枚を攻めにまわしてゴールをめざすという選択肢は取れなかったのでしょう。FIFAランキング61位の日本には、8位のポーランドを余裕で抑えるほどの力はありませんでした。「ポーランドにはベストメンバーで確実に勝って…」などという方は、大会前のわれわれがどう語られていたかを、いま一度思い出すべきでしょう。

「負けてもいいから最後まで攻めてほしかった」という目的不在のエモーショナルな声は論外として、あの状況下で他に手があったかといわれれば、本田を…とひとこと発して口ごもるしかありません。

常に全力で勝ちにいくことをよしとするプレミアリーグの爽快感に魅了されている者として、ペケルマン監督の11人に祈りを捧げるしかない10分は、屈辱的な時間でした。しかし一方で、「評価が低かったわが代表がラウンド16に進める」「記憶に残るのは勝者のみ」「これこそがワールドカップの難しさ」という声が耳元で聞こえてきます。気持ちは否定していながらも、勝利という蠱惑的な言葉に抗えない混乱を「称賛も批判もできない」と表現したのでした。

日本がグループAならば、その後のドラマティックな出来事で上書きしてもらえたかもしれません。われわれよりも圧倒的に長く無気力な時を過ごしたフランスとデンマークは、何事もなかったかのようにトーナメント表に収まっています。また、日本がもっと巧みに時間を遣っていれば、これほどまでに話題になることもなかったでしょう。たとえばフランスが同じ状況に置かれれば、ポグバやマチュイディがキープしては倒れ、仕掛けるふりをしては戻り、うまく攻められないという見せ方で時計を進めていたのではないかと想像します。

いい・悪いを超えて、今、確かなことがあります。ベスト8進出を見据えて戦った西野監督が「コロンビア勝利にベット」というギャンブルに勝ってくれたことで、日本はいいコンディションでベルギーと戦えるということです。トルシェ監督のチームにとって、トルコ戦はボーナスで、不可解なフォーメーション変更で敗れました。最終ラインを1度も崩されずにグループリーグを突破した岡田監督の日本代表は、「ダメージが残っていた」と本田圭佑が認める状態でパラグアイ戦を迎えました。過去最高の難敵と、過去最高の状態で激突するノックアウトラウンドのファーストゲーム。この素晴らしい試合を観られる幸せについても、西野采配賛成派も疑問派も、握手できるのではないでしょうか。素晴らしい代表だったと、いつまでも誇らしく思い出せるような激戦を期待しています。

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“世界も国内も賛否両論…ラスト10分を他力に委ねた西野采配をあらためて振り返る。” への16件のフィードバック

  1. グッチ より:

    更新お疲れ様です。好みやサッカー観の違いがあるので良いも悪いもどっちもあるとは思います。代表戦がまだ観られると思うと自分は嬉しいですが。
    このアプローチを選手全員が「上に行くため。」と腹を括っていればそれでいいと思いますし、揺り戻しで死の美学を追うような事なく結果を追求してくれれば「勝つための代表だった。」として受け止めたいと思います。
    ルカク、アザール、デ・ブライネ、コンパニ、フェルトンゲン、フェライニ…贅沢!!

  2. プレミアリーグ大好き! より:

    後からこうすべきだったと言うのは簡単です。事実は日本には感情を殺して判断して結果を残した代表とその決断をできたリーダーがいたということです。
    今大会は、開始前から現在においても、リスペクトに欠けた人達が多すぎました。「勝ち点1も取れない」、「全敗間違いなし」と煽ったり、本田選手をスケープゴートにして罵倒したり。結果を残したらフェアプレーなんて的はずれな批判をしたり。
    日本と日本人のために、批判を覚悟の上で合理的なプレーを選択して結果を出した。私はそのことを非常に誇りに思います。選手達だって全力でぶつかりたかったに決まっています。
    ベルギーは間違いなく優勝候補ですが、史上初のベスト8を目指して頑張って欲しいと、一人の日本人として純粋に思います。

  3. えるこっぷ より:

    最近、プレミアリーグに全く関係ない記事が多く、残念です。
    プレミアリーグのクラブに関する移籍ニュースや噂に関する奥山さんの考えを知る貴重な機会が、このような記事によって1つ潰されたかと思うと悲しくなります。

    私はこのブログの大ファンであり、かつプレミアリーグの大ファンですが、日本サッカーのファンではありません。

    マイノリティなのかもしれませんし、ここで私ごときが何か書いたくらいで奥山さんのスタイルが変わるとも思っていませんが、こういうやつもいるんだなくらいに思っていただけたらと思います。

    これからも体調に気を付けてフットボールを楽しみましょう!

  4. プレミアリーグ大好き! より:

    スルーすりゃいいのにわざわざコメント残さなきゃ気がすまないのかね(笑)

    さて日本代表に関しては賛否はもちろんあると思いますがセネガルが失点した時点で2位の権利を得ていたのであれはあれでオッケーでしょう

    アーセナルファンからしたら誇り高き敗北者なんて物は何の役にもたたないことを思い知らされています。特に代表戦なら勝ってなんぼでしょう。

  5. アイク より:

    更新ありがとうございます。
    攻め上がってはカウンターを食らっている状況でした。
    同じ博打でも、見込みも無いのに点を取りに行く博打よりも、過去2戦で築いたアドバンテージを守り他会場の結果に未来を託す博打の方が、勇気が要ると思います。日本人らしくない決断ですし。
    終盤のつまらない試合内容への失望感から色々批判したくなりますが、決勝トーナメントでスカッとさせてくれることを期待しましょう。
    余談ですが、トルシエ監督のフォーメーション変更について不可解に感じていたのが自分だけではなかったのだと知って嬉しいです。16年間モヤモヤしてました笑

  6. プレミアリーグ大好き! より:

    「サッカーはエンターテインメント。結果主義ではダメだと僕はずっと思っている。」、「次に進まないと、次にいいサッカーをしてファンを喜ばせることはできない。そこは理解してほしい」。終盤の戦い方については、この本田圭佑の発言が全てだと思います。
    さて、運命のベルギー戦ですが、強豪揃いの山であること、W杯は選手の休養が鍵を握ること、初戦の相手が格下の日本であることからして、優勝を見据えているベルギーはほぼ確実にTOしてくると思います。
    いくらベルギーといえどもサブメンバーだと選手の質が大きく落ちるので、そうなってくると日本にも付け入るスキはあるのかと思います。ただでさえ守備面に不安が残るベルギーですし。

  7. アン より:

    いつも記事がとても面白いです!
    ひとつの出来事を多角的に見て論じて下さるので、いちいちなるほどなと考えさせられます。

    折角4年に一度のワールドカップですから、PLのネタじゃなくても、ガンガン更新お願いします。
    アーセナルは別として、移籍ネタが加熱するのは、もう少し後だろうし。

    —–
    Jリーグ見ずして世界のサッカーを語れますでしょうか? レベル、質の違いなど、また優れている点など分からないはずですが。私もプレミアのファンであり、アーセナルのファンです。ただそれ以上にマリノスのファンでもあります。一部の日本人は内に目を向けず、自虐的になり、世界にしか目を向けない傾向があります。それは非常に残念なことだと思います。
    記事には関係ないことを失礼いたしました。

  8. アン より:

    私もスタメンを見て?でしたが、とりあえずは16強に進めたことを素直に喜びたいと思います。
    内容を求められるのは分かりますが、結果が全ての世界において、監督、コーチ陣、選手達を賞賛したいと思います。

  9. nyonsuke より:

    お久しぶりです。
    コメント自粛してましたが、今回だけはコメントしたくなってしまいました。
    お許しください。

    私は疑問派でした。
    最後の数分間というよりは、その状況を招いてしまった、スタメンを含めたポーランド戦の戦術に疑問がありました。
    もしセネガル戦までの戦術のまま挑んでいたとしたら、最後の数分間もmakotoさんの言うようなうまい時間の潰し方ができたと思います。
    では、なぜあんなにスタメンと戦術を変更したのかが解せませんでした。
    時間をかけて西野監督のコメントやメディアの記事をみて、そしてmakotoさんの考えに触れてある推論が浮かびました。
    この戦術はmakotoさんが仰るように、ベスト8以上を狙う強豪国のやり方です。
    その戦術をあえて取ったのは、西野監督にとってグループステージ突破でOKではなかったからなのではないかと考えてました。
    そしてその理由は、国民、サポーターの期待からなのではないのかと。
    思えば、フランス、日韓ではグループステージ突破が最終目的であり、ノックアウトステージはボーナスでした。
    しかし、南アフリカでの躍進もあり、ブラジルではベスト8が目標、本田に至っては優勝が目標と言っていました。
    私はちょっと現実味がないなと感じていましたが、世論はやってくれる、逆にその目標を掲げて当然という感じだったような記憶があります。
    その結果は惨敗だったのですが、このロシアにおいても紆余曲折しながらも監督選考時からW杯にいくのは当たり前、代表チームの是非は本戦でどこまでいけるのか、そしてセネガル戦以降はグループステージ突破は固い、あとはベスト8までいけるかというような期待感が生まれたような感じがします。
    西野監督は日本代表の立場とその意義をよく理解している方だと思いますので、もしポーランド戦で主力を疲弊させ、南アフリカと同じような結果となった場合、日本サッカーを前に進めることができるのかと考えたのではないか、ポーランド戦のスタメン、戦術は我々サポーターの期待と日本サッカー前進のための挑戦だったのではないかと思いました。
    そこで、もう一つ思ったのは同じ状況となった場合、果たしてハリルホジッチ監督は同じ決断ができたのかと…。
    ちょっと邪推が入っているのは承知ですが、私はこの考えが思いついたとたん、ロシアW杯における日本代表の全ての事がストンと腑に落ちたような気がしました。
    そして、どんな結果になろうと日本代表を応援しなければならないと思いました。

    長文、また勝手な推論をmakotoさんのブログに展開してしまいすいません。
    また気分を害された方がいらっしゃいましたら、謝罪いたします。
    申し訳ありませんでした。

  10. hw より:

    いやいや、リスペクトもなにも国を代表してるチームなら全力を尽くすべきでしょう。監督や選手は決勝T進出により追加ボーナスがありますから、当然あのような形でも何とか勝ち上がろうとするはずですが、、笑
    客観的には醜い試合でしたし、日韓の韓国を批判してた時と同じですよね。
    勝てば何しても良い、なら日韓の韓国も許されてしまうわけで笑
    あんな形で勝ち上がろうとベルギー引いた時点で敗戦ですし、なぜ与し易いイングランドを狙い1位通過しなかったのか不明すぎます。
    6人替えではなく、3人にしていれば、、、槇野なんて失笑ものでしたし、あのパフォーマンスで「レヴァンドフスキを押さえられていて満足(本人談)」なんて笑わせます。
    浦和勢は午前練の後賭博麻雀、試合に勝てばインスタグラムで女の子漁り飲み会、ですから(私の友人が現浦和選手の元カノさんで、証拠も見せてもらいました笑)w杯に出る資格なんてありません。
    戦術的にもチャレンジの吉田に対しカバーの意識がなく、斜めに走るFWも捕まえられず、本当に呼ばないで欲しかったですね。。。
    ベルギー戦全てのもやもやがなくなる試合を期待しますが、、、笑

  11. プレミアリーグ大好き! より:

    大会前は「全敗だろ」「勝ち点1取れればいい方」とか言ってたのに予選突破の可能性が出ると手のひら返して期待し始めて、最後時間稼いで結果にこだわってベスト16決めたのに急に要求の質高くなってフェアプレーだなんだでディスり始めるもん。
    そんなんできひんやん、普通。

  12. 一介のグーナー より:

    アーセナルファンだからこそ、2010年でしたかね、パトリス・エブラに「僕にとって、アーセナルはサッカーのトレーニングセンターだよ。試合は見ていて楽しいが、それでタイトルが取れるのかい? 人々の記憶に残るのはタイトルなんだ。彼らが最後にトロフィを取ってから5年もたっている。」と挑発された事を忘れていません。

    でもアーセナルファンにとってはアーセナルのシーズンは記憶に残っているし、あと100年経てば、ファーガソンの偉業もベェンゲルの偉業も単なる文字の記録になるでしょう。では何が残るかというと、やはり毎週試合を見続けたかけがいのない体験なのだと思います。

    確かに結果は大事ですが、より大切なのは、そういった体験に深く作用する、最後まで諦めない気持ちでしょう。エモーショナルでも結構。エモーションを揺さぶるからこそ、サッカーファンは感動を求め、毎週スタジアムに足を運ぶのではないでしょうか。そういったサッカーの価値を貶める行為だからこそ、あれほどの批判が起きたのだと思いますよ(特にこれからサッカーでやっていく解説者たちからは)。

  13. プレミアリーグ大好き! より:

    毎試合あんな試合してるなら分かるけど、突破がかかった10分間だけだから。その程度で価値を貶めるなんて言われたらターンオーバーも守備固めも許されないじゃん。
    ホントに批判のピントがずれてる

  14. エミリー より:

    裁判の判例みたいなもんで、日本サッカーの歴史の中で、ああいう狡猾にふてぶてしく勝ち上がったという実績は、ある意味とてもたくましく根付くと思います。
    だからこそ、次の試合の結果は実りあるものだと、カッコはつきやすいですが、どうなることやら(笑)
    決勝トーナメント始まりましたが、急にババッとクオリティ上がりました(笑)
    みんな、界王拳出してきましたね。
    疲れているとはいえベルギーですか。
    日本頑張れ!!!

  15. セオ より:

    シーズンの試合とW杯グループリーグ最終節の試合を一緒に考えるわけにはいけないと思います。
    GL最終節のあの時間帯に、決勝トーナメントに出るために攻めるのか守るのかという究極の2択を選べる状況にあったことが、単純にすごいと思います。
    監督の決断をベンチを含めた選手全員がぶれずに遂行したこともすごい。

  16. 福岡 より:

    ご無沙汰しております。
    私の意見としては、極めて日本人的な判断だと。
    とにかく上に進むにはどんな手段であっても
    良いと。

    極めて日本的な思考でハリルの首を切り、
    ラッキーが重なり上に進める可能性が出て来た
    からには、何が何でも上に進まないといけない。
    弱者が最も可能性が高い方法を選んだ。で、
    運良くポーランドラがお付き合いしてくれたと。

    勝てば官軍。
    極めて、日本的です。

    —–
    最後の戦い方を選択できたのも、前の2試合を全力で戦ったから。さらにフェアプレーで勝ち上がるので恥じることはないです。
    勝てばいい、ということを批判するならポーランドも批判されるべきですよね。彼らもまた戦うことを止めたのですから。

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