偏愛的プレミアリーグ見聞録

ファン・ダイクを獲得してチャンピオンズリーグのファイナルに進出したリヴァプールが、オフシーズンにアリソン・ベッカーを引き入れたとき、クロップ監督のチームはプレミアリーグも欧州も制覇するのではないかと思いました。今、私は当時と同じ思いで、ダヴィド・ラヤとウィリアム・サリバを擁するチームを見つめています。

「アーセナルがバイタリティ・スタジアムで4-0の勝利を収めた試合のオープニングに、サリバの背後を突いたソランケは、かなり前に出ていた。しかし、アーセナルの怪物センターバックには、守備のディスタンスにおける通常のルールは適用されないようだ。一瞬のスピード、ブースト、タックル。そして突然、攻撃は終わった」

「別の日、違うDFが相手なら、ドミニク・ソランケはボールにタッチし、ゴールを見据えてコーナーにシュートを放ったかもしれない。しかし、土曜日のウィリアム・サリバとの戦いでは、ボーンマスのストライカーは芝生に顔を伏せ、ボールを奪われ、いったい何が起こったのだろうと訝しんでいる自分に気づくだけだった」

ウィリアム・サリバの凄さを、これほどリアルに活写したテキストはなかなかないでしょう。筆者は「テレグラフ」のサム・ディーン記者。22歳にして、プレミアリーグでNo.1ともいわれるようになったCBは、現地のジャーナリストを泣かせているのではないでしょうか。というのは、彼の素晴らしさを1発で伝えるスタッツが、どこにも存在しないからです。

普通のCBは、ストライカーを追いかけてスライディングで奪えば、タックル成功1回という数字が加えられます。同じシーンでサリバは、あっさり肩を並べてチャージで相手を吹っ飛ばすか、巧みに足を出して奪ってしまうので、ディフェンシブアクションという話題にならない数字しか残しません。シュートを打たせないCBなので、ブロック数をチェックしても、ガブリエウやベン・ホワイトより少ないということがわかるだけです。

パス成功率94％はリーグ4位。1試合あたりのパス本数79.5本は7位…そんなスタッツを出されても、エミレーツのスタンドで彼のパフォーマンスにため息を漏らしているグーナーの心は動かないでしょう。そうなると、彼がいる試合と不在の試合のギャップを示すチームスタッツに頼るしかありません。

2022-23シーズンにプレミアリーグデビューを果たし、35戦27勝5分3敗。勝率77.1％と1試合あたりの獲得ポイント2.46は、クラブ史上最高です。彼がいないリーグ戦は5勝3分3敗。以前に紹介した数字に、マン・シティ戦の偉大な勝利を足しただけで恐縮ですが、いや、唯一無二のコレで納得していただくしかないんです。件の記者も、情熱的な表現を駆使するしかないと心得ているようです。

「サリバの身体能力は、異常といえる。率直にいって、彼のような体格の選手があれほどのスピードで動けるはずがない。一方でボールを持つと、プレッシャーがかかる状況でも落ち着いており、パスも正確だ。唯一の欠点は、昨季のレスター・シティ戦でのオウンゴールのように、ときどき精神的に不安定になることだろう」（サム・ディーン）

アーセナルに入団したのは2019年。ニース、マルセイユのローン移籍を経てノースロンドンに戻ってきたのは2022年。クラブにとって最高のタイミングで獲得し、本人にとって最高のタイミングで合流したといっていいでしょう。ファン・ダイクの半額以下の2700万ポンドしか払っておらず、マルセイユでハイプレスの戦い方を覚えて完成形で帰ってきたのですから。

あの試合が始まる前は、ブカヨ・サカの欠場はアルテタ監督のCL起用という判断ミスによるものではないかとモヤモヤしていました。しかし、ハーランドを無力化したサリバの完璧な守備とマルティネッリの劇的なゴールが、7番の不在を忘れさせてくれました。最強のCBが加わった後、プレミアリーグでセーブ率No.1の守護神を加えたアーセナルには、黄金時代を築いたリヴァプールと同じ匂いが漂っています。

サリバの凄さはうまく伝えられなくても、これははっきりいいましょう。アーセナルがチャンピオンズリーグを制すると思うかと問われれば、答えは「イエス」だと。