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間違えなかったアーセナル。イヴァン・ガジディスCEO退任に際して思うこと。

アーセナルのイヴァン・ガジディスCEOが、10月末に退任してACミランに加わると発表されました。以前から噂になっていた引き抜きについて、「Behind the scenes at Arsenal: Why is chief exec Ivan Gazidis to leave the Emirates for AC Milan?(アーセナルの舞台裏:イヴァン・ガジディスCEOは、なぜエミレーツを離れてACミランに向かうのか?)」と題した記事を掲載した「ESPN」は、イタリアのクラブにおけるミッションがよりチャレンジャブルだったためと主張しております。

実際のところはわかりませんが、「ヴェンゲルを立ち去らせて最後に残ったガジディスが、今になって移籍を選択したという事実は皮肉なものだ」という見方は、いささか穿ちすぎなのではないかと思います。デヴィッド・ギルの退任決定の後にサー・アレックス・ファーガソンが勇退を発表し、混乱の時を過ごしたマンチェスター・ユナイテッドサポーターからすれば、経営の責任者が新体制の構築と安定化に尽力してから後任に委ねるという流れは適切に映ります。将棋をやる方は、歩と角を打つ順番を間違えると、とんでもないことになるのをご存じでしょう。2013年の夏のマン・ユナイテッドを振り返り、今回のアーセナルと比較してみたいと思います。

2012-13シーズン、赤い悪魔が最後のプレミアリーグ制覇。サー・アレックス・ファーガソンは、このときのチームが急速に衰えるのをわかっていたでしょう。ファーディナンド、エヴラ、ヴィディッチ、フレッチャー、ギグスは既にピークを過ぎており、スコールズはこのシーズン限りで引退。長期政権後のクラブに強さと伝統を継承させるなら、選手の目利きができていた前監督によるサポート、経営ボード自体の人材強化、一流のスカウトのアサイン、クラブを説得できる実績と迫力がある新監督の招聘という4つの打ち手がありました。このタイミングでジョゼ・モウリーニョを呼べれば、その後の5シーズンで1~2回は優勝できていたかもしれません。輝かしい実績を誇示してワールドクラスを引き入れ、ハードマネジメントでモチベートするのが得意な「スペシャル・ワン」は、衰えた選手に見切りをつけて早期にチームを創り直すなら、うってつけのキャラクターだったと思います。

しかし、実際に就任したのはエヴァートンを率いていたデヴィッド・モイーズでした。ビッグクラブを率いた経験がない監督ゆえに、ワールドクラスを補強するプランはなく、ギル氏を失ったばかりのフロントが主導した移籍交渉はことごとく空振りに終わりました。唯一の即戦力は、マルアン・フェライニ。当時のプレミアリーグを知らないグーナーのみなさんは、そうですね…ヴェンゲルさんの後釜にバーンリーのショーン・ダイクさんあたりが選ばれて、前任のチームの主力だったからという理由でグズムンドソンだけ連れて来られたと想像してみてください。さすがに、しんどいでしょう⁉ 

主力が衰えていたマン・ユナイテッドは、先に飛車や角を打ち込まなければならなかったのです。前述の4つの策が講じられることはなく、経営陣は手なりで、スコットランド人監督と心中するしかありませんでした。古株の選手を仕切れずに揉めてしまった指揮官が迷走の末に解任となり、ファン・ハール監督は若手を抜擢して「と金」をいくつか作りましたが、FAカップ制覇が精一杯。遅れてやってきたモウリーニョさんのサッカーは、以前と比べると相対的にアドバンテージを失っており、ワールドクラスを獲るだけでは追いつけない状況が出来上がっていました。現在のプレミアリーグをリードするのは、ペップ・グアルディオラやユルゲン・クロップ、マウリツィオ・サッリがタクトを揮う「強力なウイングを擁して前線からプレスをかけ、サイドアタックとショートカウンターを織り交ぜた機動力の高いフットボール」です。

さて、アーセナルです。ヴェンゲル監督は、2016-17シーズンにプレミアリーグ4位以内を外しており、昨季は「終わりの始まり」でした。ミスリンタート、サンレヒ、ヴェンカテシャムの3氏に要所をまかせ、経営ボードの刷新とスカウティング強化から着手したのは大正解。戦術家として定評があり、パリでカバーニやネイマールをマネジメントした経験もあるウナイ・エメリ監督という人選も、納得感があります。新体制が無事に船出を済ませたこのタイミングでのガジディス退任は、出るほうも残るほうもオッケーでしょう。ノースロンドンは、5年前のマンチェスターとは違う妥当な順番で駒を進めました。エメリ監督が角か銀か香車という問題は残りますが、これはどんなクラブでも失敗の可能性がある話であり、経営陣がしっかりしていれば長期的に沈むことにはならないでしょう。

近年のヴェンゲル監督のチームづくりに疑問を持っていた方のなかには、ELで戦っている現状をみて「もう1年早く退任だったらよかったのに」という向きもあるかもしれませんが、そのタイミングでは、ヴェンゲル頼みだったチーム運営手法をリニューアルするための人材と体制がなかったのでしょうね。クラブが苦しい時期に経営責任者として奮闘したガジディスさんの後ろ姿に、静かに拍手を送るとともに、エメリ監督によるヨーロッパリ…いや、プレミアリーグ制覇を祈念させていただきます。今季はペップ、レッズ、ブルーズのいずれかで決まりそうな雲行きですが。

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“間違えなかったアーセナル。イヴァン・ガジディスCEO退任に際して思うこと。” への2件のフィードバック

  1. あああ より:

    とても興味深く読ませて頂きました。
    将棋に例えての考察、見事の一言です!
    こういう記事の書き手のものを、毎日のように読めるのだから、このブログのファンは幸運です。
    本当に毎日ありがとうございます。

    アーセナルファンとしては、せめて来季まではカジディスさんには残ってほしかったのですが、記事を読んで、本当にやることは全うしてから去るんだなと再確認して、感謝しかありません。
    後を任された者たち次第ですね。
    エメリさんが大駒であることを祈ります。

    あと、と金のくだりは大笑いしてしまいました。

    —–
    当然ですが、ポチッと押させていただきました笑
    今回はクラブの運営方針やチームプランについて、たいへん面白い記事を読ませていただきました。
    モイーズはサーアレックスの後任というだけでなく、ビッグクラブ自体が難しかったのだと思いますが。
    モウリーニョもまだクラブにしっくり来ている感じはないですが、クラブの遺産をある程度遺しながら改革をやれると思います。
    クラブの前進を考えると、マンU=サーアレックスのイメージを一度すてることがいま必要かも知れませんね。

    —–
    分かりやすい例を挙げるために、ショーンダイクやグズムンドソンを出したんでしょうが流石にそれは当時のモイーズを舐めすぎです。モイーズのエバートンは魅力的なチームでフェライニのプレーも良く、当時は時間がかかるもしれないがモイーズならファーガソンの後継者になるのではないか?という意見が多かったです。たまたま1シーズン良かったバーンリーのダイクやグズムンドソンとは格が違うと思います。強いて例を挙げるならポチェッティーノでしょう。

  2. プレミアリーグ大好き! より:

    エメリにはすぐにではなくとも結果を残しいずれ王に、やがてファーガソンやヴェンゲルを超える玉になって欲しいです。

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