イングランドのプレミアリーグ(ときどきチャンピオンズリーグ)専門ブログ。マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、リヴァプールetc.

偏愛的プレミアリーグ見聞録

マンチェスター・ユナイテッドファンですが、アーセナル、チェルシー、トッテナム、リヴァプール、エヴァートンなどなど何でも見てしまう雑食系プレミアリーグファンです。プレミアリーグ観戦記、スタジアム、チーム情報からロンドンやリヴァプールのカルチャーまで、幅広く紹介しています。

16年ぶりにプレミアリーグへ!変人&鬼才ビエルサと雑草集団リーズが辿った2年間の軌跡。

「マルセル・ビエルサの奇跡」と表現しても、決して大げさではないでしょう。プレミアリーグに、古豪リーズが帰ってきます。2018年の夏に、チャンピオンシップのチームの指揮を執ると発表して欧州を驚かせた鬼才は、13位だったクラブを3位に引き上げ、プレーオフで惜敗。2年めの今季は、前半戦を14勝5分4敗としてWBAを追撃し、33節からの10勝1分1敗という猛スパートでライバルを突き放しました。

44節までの勝ち点は87で、2位WBAは82、3位ブレントフォードは81。フライデーナイト開催のハダースフィールド戦でWBAが敗れたため、2試合を残して2位以内が確定しました。さらに昨日、ストークがブレントフォードに1-0で勝利。リーズのチャンピオンシップ制覇は、30年ぶり2回め(1990年の呼称はディヴィジョン2)です。最後にプレミアリーグで戦ってから、5907日、194か月、843週間。この日を待ちわびたサポーターにとって、長い長い16年でした。

マーク・ヴィドゥガ、アラン・スミス、ロビー・キーン、リー・ボウヤー、ハリー・キューウェル、オリヴィエ・ダクール、ドミニク・マッテオ、イアン・ハート。プレミアリーグを長年、見続けている方なら、2000-01シーズンにチャンピオンズリーグでセミファイナルに進出したリーズの輝きを覚えていらっしゃるのではないでしょうか。2005-06シーズンまで、5年連続で欧州進出を果たしていたクラブが凋落した最大の理由は、ビッグネームを買い漁る放漫経営による財政危機でした。

2002年の夏から1年も経たないうちに、リオ・ファーディナンド、ロビー・キーン、ロビー・ファウラー、ボウヤー、ダクール、キューウェルが全員離脱。プレミアリーグ15位に転落したクラブは、2003-04シーズンを19位で終え、チャンピオンシップに降格します。2005年にクラブを買収したケン・ベイツ氏も財政を立て直せず、2007年5月4日に破産宣告。リーグ1(3部相当)に陥落した直後に給与の不払いが発生したため、新しい運営会社に再建を託したクラブは、マイナス15ポイントというハンディキャップを背負って戦うことになりました。

チャンピオンシップに復帰したのは、2010年。2回も復帰したニール・レッドファーンをはじめ、8年で延べ13人の監督を招聘した古豪は、6シーズンを2ケタ順位で過ごす凡庸なチームと化していました。ぬるま湯を沸騰させるべく、リーズに変革を求めたビエルサは、まさに黒船。欧州ではおなじみのエキセントリックな振る舞いの第1弾は、「サポーターに感謝せよ」と選手たちに課した3時間のスタンド清掃でした。

フットボールの鬼は、恐怖の完璧主義と予測不能の奇行で関係者を振り回し続けます。「ソープアーチの練習場に、寝泊まりするためのベッドとキッチンを設置」「アシスタントに、数百時間の試合のデータ分析を要求」「選手たちは半年間休みなし、ビール禁止、体重・体脂肪率・骨密度を毎日測定」「ピッチの芝の長さと、太陽の当たり具合まで指示」。変人が持ち込んだ「4-1-4-1のひたすら走るサッカー」で勝ち続けたからいいようなものの、下位に沈めば暴動が起こっていたのではないでしょうか。

ライバルのWBAとリーズのスカッドを比べてみると、ビエルサの戦術がいかに素晴らしいかがよくわかります。キーラン・ギブス、ロブソン=カヌ、チャーリー・オースティン、リヴァモア、ゾホレらプレミアリーグ経験者が主軸にいるビリッチのチームに対して、ビエルサが鍛えた選手はワケありだらけです。

最前線はチェルシーで出場ゼロのバンフォード、中盤にはマン・シティで出場ゼロのジャック・ハリソン、一時はカタールにいた35歳のパブロ・エルナンデス、弱いリーズしか知らないカルヴァン・フィリップス、チームメイトのキスに激高して殴りつけた変人アリオスキ。プレミアリーグで活躍したと胸を張っていえるのは、昨夏にウルヴスからレンタルしたエルデル・コスタとボロから来たフォーショーぐらいで、レアル・マドリード出身のベテランGKキコ・カシージャがむやみに輝いています。

チームの得点王だったケマル・ルーフェと期待の若手ジャック・クラークを手離し、夏に借りてきたエンケティアは5ゴールを決めただけで1月に返却。戦力的には前年より厳しいと思われたスカッドを、よくぞここまで持ってきました。走力をベースにしたチームがいかにしぶといかは、残留請負人のトニー・ピューリス、セインツとスパーズをステップアップさせたマウリシオ・ポチェッティーノ、シェフィールド・ユナイテッドで欧州をめざすクリス・ワイルダーが証明しています。「すぐに疲れる選手はハードに鍛えればいい」とうそぶく鬼才が、いきなりTOP4争いに食い込んできても、驚くことではないのかもしれません。

おめでとう、リーズ!ビエルサのチームは、プレミアリーグでどこまでいけるでしょうか。バルセロナの監督に就任する前、故郷のロサリオにいたビエルサを訪ね、ノート1冊では足りなかった11時間の戦術指導を受けた愛弟子ペップ・グアルディオラとの直接対決が、今から楽しみです。(マルセロ・ビエルサ 写真著作者/Рыбакова Елена)


おもしろいと思っていただけた方は、お時間あれば、下のブログランキングバナーをクリックしていただけると大変うれしいです。所要時間は5秒です。何とぞよろしくお願いいたします!


“16年ぶりにプレミアリーグへ!変人&鬼才ビエルサと雑草集団リーズが辿った2年間の軌跡。” への2件のフィードバック

  1. Macki より:

    更新ご苦労様です。
    いよいよ、あのリーズがプレミアに帰ってきますね!しかもビエルサがプレミアに!楽しみですが、
    開幕前にビエルサがヘソを曲げないことを祈ります。

  2. 島本浣 より:

    リーズの昇格を、経緯を含めて日本で一番早く伝えてくれてありがとうございます。ぼくはリーズ、という以上にマルセロ・ビエルサの信奉者なんです。彼がリーズに来たときに、貴君が書いていた文章もよく覚えてます。「風ととに去りぬ」のようなイメージで、ビエルサがリーズを去っていくという予感で終わっていました。ぼくも少し前までそんな感じを抱いてました。でも、どうやら来年も続けてくれるようですね。ビエルサはフットボールという競技にとても「誠実」な人間だと思います。そのビエルサが、来季、不誠実と金融資本主義の駆け引きが跋扈するプレミアで、どんな戦いをするのか、惨敗か傷跡を残すか、応援します。貴君のブログも楽しみにしています。

コメントを残す