偏愛的プレミアリーグ見聞録

「マンチェスター・ユナイテッドは本日、INEOS会長のサー・ジム・ラトクリフがクラスA・クラスB株式の25％を取得し、オールド・トラフォードへの将来の投資を可能にする3億ドルを追加で提供する契約を締結した」

「取引の一環としてINEOSは、クラブのフットボールオペレーションのマネジメントを委譲するという取締役会の要請を受け入れた。これには、Manchester United plc（MANU）とフットボールクラブのボード取締役会の2つのシートに加え、男女のフットボール事業とアカデミーが含まれる」

「彼らとの協働による野望は、クラブが有する多くの強みを土台として、ワールドクラスのフットボールオペレーションを築き上げること。これには、ファンを楽しませてきたピッチの外の成功も含まれる」

マンチェスター・ユナイテッドがステートメントをリリースしたのは、2023年12月25日。サー・ジム・ラトクリフが25％の株式を取得することが承認されました。グレイザーがクラブを売却する意向があると報じられてから13ヵ月。年末の発表となったのは、リチャード・アーノルド前CEOが完全にクラブから離れる前にという合意があったからでしょうか。

あらためて、今回のスキームについて、クラブのステートメントから引用しましょう。

– グレイザーファミリーが保有するクラスB株式の25%を取得
– クラスA株式の25%を上限とする取得オファー
– グレイザーフアミリーとクラスA株主は、1株あたり33ドルを受け取る
– クラブへの3億ドルの追加投資
– INEOSはフットボールオペレーションのマネジメントを委譲される
– 取引の完了は、プレミアリーグを含むすべての管理組織の承認が条件となる

1株33ドルとなると、サー・ラトクリフが支払うのは10億3000万ポンド（約1860億円）。ここから算出すると、マンチェスター・ユナイテッドの資産価値は42億5000万ポンド（約7680億円）という評価になります。グレイザーが主張していた60億ポンドよりは下で、10月に撤退したカタールの銀行家シェイク・ジャシムが用意した40億ポンドより上という妥当な着地です。

今回の契約による最も大きな変化は、クラブの運営責任がサー・ラトクリフに移ること。「テレグラフ」のジェームズ・ダッカー記者とトム・モーガン記者によると、暫定でCEOを務めるパトリック・スチュワートがクラブのスタッフにアナウンスする際に「プレミアリーグに認可されるまでの6週間で人事を進める。既にいくつかの答えは出ている」といっていたそうです。

「テレグラフ」の記事は、ユヴェントスの元CEOのブラン氏が役員に就任し、サー・ラトクリフの腹心2名もクラブのボードに加わる見通しと伝えています。プレミアリーグの認可に4～6週間はかかり、冬のマーケットでは投資できないため、ターゲットは夏。INEOSの会長はニューカッスルのダン・アシュワースFDを称賛しており、ジョン・マータフの退任は必至です。

「クラブの商業的な成功により、最高レベルのトロフィーを獲得するための資金が確保されてきたが、最近はこのポテンシャルが充分に引き出されていない。私たちは、イネオス・スポーツ・グループのグローバルな知識、専門技術、タレントを活かして、クラブのさらなる向上に貢献するとともに、オールド・トラフォードへの将来的な投資を可能にする資金を提供しする」

「私たちは長期的な視野をもってここにいる。そして多くのチャレンジとハードワークが待ち受けていることを認識している。経営ボード、スタッフ、選手、ファンなどすべての人と協力して、クラブを前進させることに全力を尽くす。マンチェスター・ユナイテッドが、イングランド、ヨーロッパ、そして世界のサッカーの頂点に返り咲くことを全員が望んでいる」（サー・ラトクリフ）

クラブを愛するサー・ラトクリフの降臨を歓迎するものの、25％の株式はグレイザーの横槍が入る可能性を排除できておらず、未来は不透明といわざるをえません。ひとつだけ、はっきりしているのは、テン・ハフ監督が現職を続けるためには、6週間のうちに希望を示さなければならないということです。明日のアストン・ヴィラ戦は、巻き返しのための大事な1歩。ぜひ勝利を！